いるいる辞典 規則命事件
12時半過ぎにクレームの電話がかかってきた。さやが受けたのだが埒が明かない。相当手強い相手のようだ。社員総がかりで関連者類を漁って対応する。状況は余り良くならないようで、さやは困り顔だ。その時である。白石が信じられない台詞を言ったのは。
「あら、嫌だ。もう13時じゃない。休憩の時間だから、私抜けるわね」
言うが早いか財布を持って走り去っていった。全員唖然としたのは言うまでもない。さやなど顔色を変えて、今にでも受話器を叩きつけんばかりだ。拳が震えている。
結局相手の勘違いだったのだが、40分近くも要してしまった。そして14時きっかりに白石は戻ってきた。確かに休憩時間は1時間と決められているが、そこまで守る必要もないと思うのだが。ましてやこんな緊急事態に。
こんなコトもあった。白石が電話応対をした時のコトである。どうも先方が用があるようで、訪問したいと言っているらしい。
「13時ですか。実はその時間に担当者が休憩に入ってしまうんですよ。14時でも構いませんか」
オレは頭を抱えてしまった。先方に休憩を理由に時間変更させるか、普通。なんで離席しているとか濁せないかな。電話の向こうで唖然となっているのが容易に想像できる。
さやはやはり屋上にやってきた。
「ご苦労さん」
「もう白石のやつ、信じられない」
「どこまでガチガチなんだろうな」
「ありえないでしょ。みんな必死でやってるのにさ。そんな理由で抜けるなっての」
「ほら、コーヒーやるから。落ち着けよ」
「タベっち、優しい」
可愛い笑顔にグラッと来た。いかんいかん。旦那がいるんだってば。
作品名:いるいる辞典 規則命事件 作家名:飛鳥川 葵