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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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いるいる辞典 規則命事件

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規則というものは必要なのだが、それでもグレーゾーンは存在する。破っても構わないものもある。物事は流動的であって一筋縄ではいかない。臨機応変に対処すべきなのだ。人を相手にしているのだから当然のコトである。だがここにはそれ命の人間がいる。白石あずさがそうだ。

 12時半過ぎにクレームの電話がかかってきた。さやが受けたのだが埒が明かない。相当手強い相手のようだ。社員総がかりで関連者類を漁って対応する。状況は余り良くならないようで、さやは困り顔だ。その時である。白石が信じられない台詞を言ったのは。
「あら、嫌だ。もう13時じゃない。休憩の時間だから、私抜けるわね」
 言うが早いか財布を持って走り去っていった。全員唖然としたのは言うまでもない。さやなど顔色を変えて、今にでも受話器を叩きつけんばかりだ。拳が震えている。
 結局相手の勘違いだったのだが、40分近くも要してしまった。そして14時きっかりに白石は戻ってきた。確かに休憩時間は1時間と決められているが、そこまで守る必要もないと思うのだが。ましてやこんな緊急事態に。

 こんなコトもあった。白石が電話応対をした時のコトである。どうも先方が用があるようで、訪問したいと言っているらしい。
「13時ですか。実はその時間に担当者が休憩に入ってしまうんですよ。14時でも構いませんか」
 オレは頭を抱えてしまった。先方に休憩を理由に時間変更させるか、普通。なんで離席しているとか濁せないかな。電話の向こうで唖然となっているのが容易に想像できる。

 さやはやはり屋上にやってきた。
「ご苦労さん」
「もう白石のやつ、信じられない」
「どこまでガチガチなんだろうな」
「ありえないでしょ。みんな必死でやってるのにさ。そんな理由で抜けるなっての」
「ほら、コーヒーやるから。落ち着けよ」
「タベっち、優しい」
 可愛い笑顔にグラッと来た。いかんいかん。旦那がいるんだってば。