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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
novelistID. 31338
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いるいる辞典 小学生以下な人

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毎日仕出し弁当を届けに来るおばちゃんがいる。何度か受け取りをするうちに仲良くなった。なかなか面白い人で、コーヒー1杯分の休憩をしてから帰っていく。
 今日も彼女は時間通りにやってきて、会議室に弁当を並べる。オレはコーヒーを注いで持っていった。
「小夜子ちゃん、お疲れ様。まぁ、席に着いて1杯飲んできなよ」
「悪いねぇ。じゃ、遠慮なく」
「毎日頑張るねぇ」
「何を言っとる。この歳で雇ってもらっとるんだ。感謝して働かにゃ罰が当たる」
 相変わらずひどく真っ当な台詞を言う。聞いていて清々しい。
「こないだ違う人が来てさ。言っちゃ悪いけど、感じがねぇ」
「あぁ、あのばあちゃんか。人のコトは言えないけどね」
「小夜子ちゃんは可愛いおばちゃんじゃん」
「何を言うかね。えぇ歳のばあちゃんやぞ」
「そう言わず。で、あの人は問題ありなの」
「まぁね。こないだなんか『私、あの人嫌いだから一緒に働きたくない』って言い出したんだよ。どう思う」
「それはいかんでしょ。仕事なんだからさぁ。人の好き嫌いで選ぼうなんて通じるわけないじゃん」
「ほうだろぅ。おかしいわ、あのばあちゃん」
「何を言うんだろうね。初めてのバイトの若い子みたいな台詞をさ。信じれん」
「まぁ、いろいろいるわな。んじゃ、ごちそうさん。邪魔したね」
「いえいえ。気を付けてね」
 どこにでもおかしな人間はいるものだ。ここもかなりなものだが。

 席に戻る道に茶封筒が落ちていた。誰のものなのか分からないので中を覗いてみる。何かのアンケートらしい。表紙には労働基準監督署の文字がある。重要なもののようだが、やはり誰のものか分からない。首を傾げていると声がした。
「どうしたんですかぁ」
 オレの嫌いな女性だ。振り返らずとも、この語尾下げ伸ばしですぐに分かる。安藤すなおのお出ましだ。名前と正反対の性格はオレでも知っている。
「いえね、書類が落ちてまして。誰のものか分からないんですよ」
「えぇ~、なになにぃ。見せて、見せてぇ」
「いや、でも重要なものみたいなんで、とりあえずDMに届けてきますよ」
「へぇ、そうなんですかぁ。じゃあ、よろしくお願い致しますぅ」
 やれやれ。なんでも首を突っ込みたがる困ったお人だ。

 茶封筒で思い出したコトが1つ。いつだったかオフィス改善調査なるアンケートがあった。それを入れる茶封筒の表書きが問題だったのだ。何が書きたかったのかは分かるが、これはないだろうと。
 「オフィス改善調査書類『存中』」とあったのだ。分かる、分かるのだが、小学生レベルの間違いである。「ゾンチュー」ってゾンビのネズミかよ。そんなものは願い下げだ。
 見事にさらされた文字だが、そこは大人。誰もが見なかったコトにした。そして犯人を知っていた。あの字の汚さは彼女しかいない。そう、安藤である。困ったコトに「日本語を知らない、字は知らない、口の利き方も知らない」と三拍子揃っている。DMは知っていて書かせたのではないかと疑ったが、それはなさそうである。あの人では分からないだろう。人を見る気もないお人だから。
 安藤が字を知らないのに気付いたのはスケジュール変更が来た時だった。オレが席を外している間にあったようで、デスクにメモが貼ってあったのだ。そこには「お客様のご『用』望ですが……」と。なんとなく指摘したほうが良いのではないかと思い、お礼ついでに言ってみた。
「そうなんですかぁ。全然知りませんでしたぁ。今後気を付けますねぇ」
 小学生レベルの漢字ですけどね。唖然としつつも、その言葉に期待をしたのだが、未だに間違えている。書類は手書きではないのが救いである。

 一度試してみたいコトがある。抜き打ちで安藤に漢字検定3級を受けさせたい。見事にすべってくれるだろう。一体何点取れて、どれだけ爆笑な間違いをしてくれるのか。言っておくが、中卒レベルの級だ。難しくもなんともないはずだ。本人もその気で解答するだろう。どう見ても「怪答」だろうが。