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蒼空少女騎士団(仮) 第二章「集いしものたち」

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 輸送機に乗ったシルルがたどり着いたのは、王都が置かれた島嶼から少し離れた海域にぽつんと浮かぶ火山島だった。
「あっつ」
 ただでさえ蒸し暑い気候に加えて、至る所から高温のガスが吹き出している島に足を踏み入れた途端、シルルの額から汗が噴き出してきた。彼女は肩にかけていた荷物を地面に投げ出すと、手ぬぐいを手にして汗をぐっとぬぐった。
「さて、と」
 手にした召集令状を彼女は改めて読み直してみた。曰く、現地に着き次第航空本部へと出頭せよとのこと。しかし、あたりを見渡した彼女の目には航空本部はおろか、建物らしい建物の姿は何一つとして入らなかった。
「本部って、どこ?」
 幸い、近くにいた整備兵を捕まえることが出来たため南国特有の背の高い木々の間を抜け、数分歩いた先にある航空本部へと無事にたどり着いたが、そこでまた彼女は言葉を失った。そこにあったのは申し訳程度に張られた雨よけの天幕と、その下に乱雑に並べられた椅子とテーブルだったからだ。実際、天幕にぶら下げられた札に「航空本部」と書かれていなかったら、石造りの建物に本部が置かれた前任地しか知らなかったシルルは到底そこが本部だとは気付かなかっただろう。
 とにもかくにもそこが本部であると判断したシルルは、天幕の下で会話をしている士官たちに向かって声をかけた。
「失礼します」
 一斉に向けられた視線に少し緊張しながら、シルルはさっと敬礼した。
「王都直衛隊から転属して参りました、シルル・ノーヴァ二等航空兵です。着任の許可をいただきたく存じます」
 中央にいた士官が彼女に軽く返礼し、言葉を告げた。
「ロッキ・ニョッキ少尉だ。着任を許可する」
 ロッキと名乗った上官の格好に、シルルは眉をしかめた。上服はだらしなく前のボタンを全開にし、その下にはシャツではなく肌着が直接見えている。足下は軍靴ではなく素足にサンダルという、一言で言えば非常にだらしない格好といえた。
 そんなシルルの視線に気付いたのか、ロッキは口角を釣り上げて笑みを浮かべると、
「中央からきたお前さんには見慣れないかもしれないが、ここは規律にあまりうるさくない。それに、この暑さだ。正規の格好をしていたら体力を消耗してすぐにばててしまうぞ」
と、彼女に告げた。実際、きちんと軍服を着込んでいたシルルは全身汗だくで、息も上がってきていたのだからその言葉には説得力があった。
「とりあえず、今日のところはお前さんにしてもらうことは何もない。兵舎でゆっくり休んでくれ」
 そう言われて案内された先には、簡素な作りの建物が建ち並んでいた。扉も備え付けられていない造りに唖然としたシルルは、気を取り直して自分が割り当てられた兵舎へと足を踏み入れた。
「失礼しま……す」
 外観と同様、室内は必要最小限のものしか備えられていないあっさりとしたものだった。いい加減、この光景に慣れてきたシルルはもはや驚くこともなく、そのまま室内に足を踏み入れようとしたところで固まってしまった。誰もいないと思っていた部屋の片隅、少し薄暗くなっているところで彼女に背を向け、身だしなみを整えている女性がいたからだった。彼女はシルルに気付くことなく頭に手を伸ばすと、髪留めを外した。頭の上側両脇で留めていた髪がばさりと腰の下まで流れ落ち、彼女が軽く頭を振るとそれは窓から差し込んだ光を受けてきらきらと黄金色の輝きを放った。
「綺麗」
 思わずシルルがつぶやいた一言に、奥の女性が反応して振り返った。
「誰?」
 その言葉に我に返ったシルルはさっと敬礼すると(何しろ彼女は一番階級が低かったのだから、相手が誰であれ敬礼するのに越したことはなかった)、先ほど士官たちに名乗ったのと同様に自分の所属を告げた。
「ああ、貴方が。話は聞いているわ」
 そういってシルルの前まで歩み寄ってきたその顔を見て、彼女ははっとなった。
「同室のリファシス一等兵曹です。今後ともよろしく」
 果たして女性の口から出てきたのは、シルルが想像したとおりの名前だった。
「え、え? 本当にあの有名なリファシス一等曹ですか?」
 軽く混乱しているシルルを見てくすりと笑うと、
「有名かどうかはともかく、リファシス本人よ」
と、シルルに告げた。
「有名な一等曹殿と同室だなんて、光栄です!」
 興奮冷めやらぬ口調で声に出しながら、シルルはリファシスに案内されるままに室内へと足を踏み入れた。
「貴方のベッドはここ。荷物は基本、ベッドの下に置いてもらうことになるけど、よく使う小物とかは棚に置くこともできるわ。ただ、棚は共用だから気をつけて使うように。寝具も含めて衣類等、必要なものは自分で管理すること。この気候だし汗はかなりかくから、洗濯はこまめにした方がいいわね。水場とトイレは室内にはないからあとで案内してあげる。後はお風呂についてだけど」
 ここでリファシスは、いったん言葉を切ってシルルを見つめた。
「こんな島だけど、火山があるおかげで温泉が湧いているの。いつでも自由に使えるわよ」
 片目を瞑ってリファシスが発した言葉に、シルルは歓喜の声を上げた。環礁を中心とした王国は、基本、どこへ行っても水の不足という問題に悩まされている。このため、水をふんだんに使う風呂などというものはたとえ王族といえども容易には使えず、良くてもせいぜい浅く湯を張った浴槽での湯浴み、一般の人々はせいぜい湯を絞った布で体を拭くか、海水に浸かって体を洗う程度が関の山だ。それでも、兵役に就いているものたちは別格でふた月に一回程度の割合で風呂を使うことが許されている。シルルもご多分に漏れずその恩恵にあずかりこれまで数度、風呂に浸かる機会に恵まれている。その感想たるや何ものにも例えがたく、このような体験をする機会が得られるだけでも航空兵になって良かったと心底思ったことも一度や二度では済まなかった。
 シルルの興奮を見て取ったリファシスはくすりと笑って、残りの説明と諸注意をシルルに伝えた。
「さて、と」
 一通りの説明を終えたリファシスは、シルルに告げた。
「私は今日一日オフだけど、貴方はどうする?」
「あの、一等曹殿さえよろしければ、色々と案内していただきたいです!」
 身を乗り出すような勢いで頼み事をしてきたシルルに、リファシスは笑みを浮かべると返事をした。
「わかったわ。とりあえず、荷物を置いてきなさい。それから一緒に出かけましょう。あと、私のことは名前で呼んでもらって構わないわよ」
「は、はい。よろしくお願いします、リファシス殿!」
 憧れの存在だったリファシスと一緒にいられるという夢のような事態にすっかり舞い上がったシルルは、うわずった声を出しながら大急ぎで出かける準備をするのだった。