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かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『地下六十階・A‐ブロック』 十二月五日 


 ここでは現在、男性970名あまりが生活している。今日も新人が専用入口の分厚いドアから入ってきた。
「おーい、新人くん! ようこそ、男の園へ」
 通りかかった山崎たかしが、嬉しそうに手を振った。手首には金色のマーカーが誇らしげに光っている。
 ここはA‐ブロックだ。広大な敷地にテニスコートや人工ビーチ、学校などもある。ただ、今のところ女性は一人も入って来ていない。
 たかしは、水着のまま居住エリアからビーチに向かうところであった。ぽっこりしたお腹で浮き輪を持って歩く姿は、どう見てもビーチにいるお父さんを連想させる。
「新人くん。名前は?」
 青年に近づいていくと、たかしは人懐っこい笑顔を浮かべた。
「斉藤です。いったいここは何なんですか? 突然これが送られてきて……」と、手首を見せる。
「俺もおんなじだよ。ここはね、最高の地下シェルターだ。地下だけど地上と変わりない生活ができる。ただし、男性ばかりだけど」
「えっ! 本当に男性しかいないんですか。うっわあ、マジかあ」
 本当にがっかりした様子でため息をついた。
「斉藤君はいくつ? 俺は二十一だけど、同じくらいだよね。ここはね、十六歳から三十歳ぐらいまでの男性しかいないんだ。コミュニティはあるけど、そんなものに入らなくても、基本親しい人たちだけで仲良くしてるよ。年齢関係なくね」
 がっかりした斉藤を励ますように肩を叩く。
「こないだ二十歳になりました。てっきりコミュニティとか言うから、女性もいるものかと。えっと、とりあえず部屋に行きたいんですけど……」
 ちょっとまだ元気が無い。
「オッケー。一緒に行ってやるよ。四階の居住エリアはこっちだ」
 たかしはすたすた歩きだし、エレベーターのボタンを押した。
『居住エリア4F』と書いてある階でエレベーターのドアが開く。降りたとたん、斉藤の眼が驚きで丸くなる。そこは、吹き抜けの空間を部屋が取り囲むようにドアが無数に続いている。落ち着いた照明が灯り、廊下の幅もとてもゆったりとしていた。
「びっくりしただろ? ここは部屋数が多すぎるから、このカートに乗るんだよ。万が一誰かの部屋のドアが開いても、自動でストップするから心配ない。部屋の中にあるボタンを押すと迎えにも来てくれるから」
 たかしもここに入ったばかりの時は、建物の規模の大きさに戸惑ったらしい。まさかこんなものが地下にあるとは、誰も想像できないだろう。
「斉藤君は4210号室だから……ここだ。マーカーをかざしてごらん」
 言われた通りマーカーを近づけると、「シュッ!」と音がしてドアが開いた。
「すっげー! なんですかこれ。一流ホテルの部屋みたいですね。ベッドも広いし」
「だろ? 俺も最初入った時は『部屋間違えました』って思っちゃったよ」
 一緒に部屋に入り、部屋の使い方をたかしが丁寧に説明した。
「色々とありがとうございました。あっ、明日僕もビーチにも行きたいんで、また連絡してもいいですか?」
「うん、いいよ。連絡は内線でとれるから。番号は2245ね。じゃあ」
 くるっと振り向くと軽く手を振り、何故か浮き輪に身体を通してから部屋を出て行った。
 斉藤はたかしが部屋を出て行くのを確認すると、メモ帳を取り出し日記を書き始める。
[十二月五日 資格者として施設に入る。このタイミングで、僕にマーカーが届いたのは偶然じゃないと思う。目標は、なるべく早くNoah2の制御システムに入り込み、入口を解放すること。そしてハルマゲドンまでに、エターナル国民を一人でも多く施設に確保すること。これは僕が勝手に計画している事だけど、きっと太田さんも喜んでくれるはずだ。だってエターナルの地下にあるものは、エターナルの所有物なのだから]
 そっと手帳を閉じ、壁に埋まっている大型テレビのスイッチを入れた。
「ごらん下さい。エターナルへの入国希望者が後を絶ちません。ネットでのハルマゲドン騒動と相まって、プラカードを持った団体が国会議事堂を取り囲んでいます。日本国民の皆様、どうぞ根拠のない噂を信じないようにお願いいたします」
 警官隊と市民団体が衝突する映像が流れ、そのあとに太田勝利の写真が映る。それはまるで凶悪犯のような写真だった。本人を目にしたことがある斉藤には、その写真は〈あきらかに〉加工された顔だとわかる。
「太田さんは、こんなに目が細くつりあがってないけどね」 
 独り言を言うと、テレビを消し眠りについた。


 同じ頃『B‐ブロック』では、千歌がお気に入りの美容室に来ていた。
 中は小奇麗な内装が施され、スタッフが楽しそうに動き回っている。この階のだだっ広いフロアはテナントスペースとして、自由に店を出すことができた。
 ここでは、約女性1000弱が生活している。女性たちは誰に言われる事もなく、前職を生かした生活を自然に始めていた。
 この美容室は青山で『カリスマ美容師』と言われた、滝川ひなたがリーダーとなって経営している。もちろんここにはお金という観念が無いので、全くの趣味でやっているのだが。ひなたが素晴らしい技術でカットしてくれるという口コミで、予約が無いと入れないぐらいに毎日繁盛していた。
「ここっていつ来ても混んでるよねー。私は千歌って言うの、あなたも高校生?」
 となりの席に座っている女子高生っぽい女の子に、横を向いて声をかける。
「うん、十七歳。名前は紀代美よ。よろしくね」
 紀代美も、隣に座っている同い年ぐらいの女の子が気になっていたようだ。
「こらこら、まだ横向いちゃダメよ」
 千歌の後ろ髪を切っているひなたが、微笑みながら言う。
「はあい。紀代美ちゃんはさあ、どこから来たの? 私は東京だけど」
 千歌はしぶしぶ前を向き、鏡に向かってにぃーっと微笑んだ。
「あたしも東京よ。千歌ちゃんとおんなじね。ところで、ここが終わったらジムに行こうと思うんだけど、千歌ちゃんも一緒にどう?」
しゃべることができて、紀代美はとても嬉しそうだ。
「えー、私あんまり運動得意じゃないからなー。でも紀代美ちゃんがせっかく誘ってくれたから行こうかな」
 千歌も同じ十七歳と聞いて親しみを覚えたようだ。
「いこいこ。明日はねえ、学校に行こうかなって思ってるんだ」
「学校かあ。地上であんまり好きじゃなかったから、あたしはいいや」
 元教師だった人や、教員免許を持っている人たちが教えている教室をみんな学校と呼んでいた。
「そっかあ。じゃあ今度行こうね。時間はたっぷりあるんだし」
「はいはい、じゃあ千歌ちゃんはこの後シャンプーしようね」
 ひなたは手早く床に落ちた髪の毛を片付けると、助手にシャンプーを任せて紀代美のカットを始めた。
 隣の店はイタリアンレストランだ。店の前にはオリーブオイルとガーリックのいい匂いが漂い、女性たちの足を止めていた。しかし満席の店内を覗くと、客もスタッフも全員女性というのは少し違和感のある光景ではある。
 このB‐ブロックの年齢は十四歳から二十五歳ぐらいまでで、A‐ブロックよりも少し若くなっている。何か意図があるのだろうか。