小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

INDEX|26ページ/96ページ|

次のページ前のページ
 

思惑


『エターナル・総本部』 十二月五日 



 今日の会議の焦点は“どのタイミングでこちらが掴んだ情報を発信するか”であった。
 トップ5の一人、自衛隊元幹部の西園寺大介が議長で会議が始まった。がっちりした身体の白髪の紳士である。引退したにもかかわらず、勲章のたくさんついた軍服を自慢げに着ている。
「まず、申し上げたい事があります。二十五日の『始まりの日』、仮にハルマゲドンと呼んだ方が分かりやすいですね。このハルマゲドンの情報がネットになぜか流れています」
 西園寺は苦々しい顔をして言う。
「おかしいわね。両国民とも正確な日にちなんて知りようがないのに……」
 不思議そうに愛里は資料を見つめている。
「この情報を知っている者は非常に少ない。トップ5の人間を除けば、数えるほどしかいないはずだ。各自の端末などに拡散ウイルスなどないか再確認してもらいたい」
 太田が全員の顔を見廻しながら発言すると、皆深く考え込んだ。
「北朝鮮側からのリークの可能性は無いとは言いきれないじゃろ」
 沈黙に耐えられなくなったのか那智博士が言葉を発した。
「無いとは言い切れませんが、北朝鮮にとって何もメリットが無いはずです。先制攻撃が肝なのですから」
 腕を組み考えながら眉間にしわを寄せ、西園寺がきっぱりと言い切る。
「もしもよ。もしもこの中に政府側のスパイがいたとしたらどうかしら」
 愛里のこの発言はタブーだが、情報漏れは現実に起こっている。
「どうかな。どちらにしてもエターナルからの発表は、少しこのまま様子を見たほうがよさそうだ。だが……」
 太田はそう言ってから立ち上がると、部屋を半分ほど歩き西園寺の後ろで立ち止まる。
「ところで、西園寺さん。あなたはもうエターナルの住民ですが、最近ひんぱんに東京に出入りしていますね。実はうちの大谷くんから西園寺さんを永田町で見かけたと報告がありました。まあ、見かけただけならよろしいのですが、あなたはそのまま首相官邸に入っていって、二時間は出て来なかったと報告がありました」
 西園寺の顔色がみるみる真っ赤に変わる。
「失礼な! 見間違いじゃないのかね。私が元自衛官だからといって、今も日本国に忠誠を誓っているわけじゃない!」
「確か日本国が第十四旅団の撤収を求めた時、指揮したのは西園寺さんでしたよね。撤収した善通寺駐屯地の敷地を、確認のため調べてみたんです。すると……十六か所に打ち上げ式の電磁パルス爆弾、通称E・M・P(Electro Magnetic Pulse)が埋めてありました」
 太田はポケットから用意していた写真を取り出し、西園寺の目の前のテーブルに肩越しに置いた。
「遠隔操作で打ち上げるタイプです。これが作動したら、L・D・Fが一部損傷してエターナルは放射線にさらされます」
「だからといって私が埋めたという証拠はないぞ。証拠を出してみたまえ。とんだ言いがかりだ!」
 更に顔を真っ赤にしながらテーブルに両手を振り下ろすと、叫ぶように言った。
「……そうですか。まあそれはそれとして、西園寺さんの日本国にある口座を調べてみたんですよ。不思議な事に、撤収の完了した次の日に五億円が振り込まれていますね。そこで振込先を追跡すると政治団体の名前があり、団体の代表には防衛大臣の側近の名前がありました」
「バカな。どうやって調べたんだ。俺はエターナルを裏切るつもりは毛頭ない」
 声に勢いが無くなり、焦りの色が見え出した。顔には油汗を浮かべている。
「さらに西園寺さんのパソコン端末の削除されたデータを復元させたところ、十六か所の爆弾の設置図と防衛大臣宛てのメールが出てきました。内容は……」
 ここで突然、西園寺は椅子ごと後ろにいた太田に体当たりしてきた。会議室に緊張が走る。太田は衝撃で後ろにすっ飛ばされ、壁に激しく身体を打ちつけた。西園寺は脇の下からすばやく拳銃を取り出し、太田の顔に向ける。
「良く調べたもんだな。だがエターナルなど所詮は幻想の国だ。すでに自衛隊の特殊部隊が潜入を計画している。――最後に良いことを教えてやろう。政府はとっくにエターナルが独立することを知っていた。これがどういうことかわかるか?」
 言い終わった刹那、笑いながら自分のこめかみに拳銃の銃口をあて引き金をひいた。誰も止めに入る暇もなかった。床に倒れた西園寺の周りには、風船が膨らむように赤いシミが白い床に広がっていく。部屋の中は硝煙の匂いが充満し、その場にいた誰もが今起きた事にショックを受けていた。
 太田はすぐに気を取り直すと救急車を呼び、てきぱきと部下に指示を出す。
「西の沿岸警備を厳重するようにと治安維持隊に伝えてくれ。加えて、エターナル近海に未確認の艦影を発見したら、すぐに俺に報告するように」
 そう言うと、悲しそうな視線を床に転がる西園寺に落とした。確かに裏切りはされたが、太田にとってはかけがえの無い仲間だったのだ。
「分かりました。報告ですが、地元民は今のところ問題は起こしていません。ただ愛媛の西にある伊方原子力発電所から、侵入警報がありました。調べた結果、異常なしとのことです」
 銃声に驚いて駆けつけてきた太田の部下が、蒼白な顔をしながら報告する。
「そうか。あそこは特に警戒してくれ。もし政府の工作が入ったらひとたまりもない」
 今回西園寺の計画を阻止できたのは幸運だった。ネットに情報を流したのも、やはり彼だったのだろうか。
……ひょっとして、裏切り者は一人じゃないのかもしれない。



 同時刻


 エターナルから二十キロの海洋上に、日本の誇るイージス艦二隻が寄り添うように停泊していた。
『あきづき』と『ひゅうが』だ。エターナルの監視を始めてから六十時間以上が経過していた。艦橋から目の前に広がる太平洋を目を細めて眺めている男、『あきづき』艦長の大場喜成はずっと考えていた。彼の後ろにはさまざまな計器やレーダーがところ狭しと並んでいる。
(もし日本政府から攻撃命令が出たら、私は同じ日本人が住む土地を攻撃できるのか)
 愛媛で少年期を過ごした大場は、後の演歌歌手である舟木浩一の遠い親戚でもあった。
 この六十時間いろいろ考えた結果、大場はついにひとつの結論に達した。
 ゆっくり艦内マイクを持ち上げると、乗組員200名に宣誓する。『ひゅうが』にも聞こえるように無線はオープンだ。
「艦長の大場だ。私は同じ日本人を、政府の命令とはいえ攻撃することはできん。これより旧高知港に入港し、エターナルの湾岸警備の任務に当たれるように交渉するつもりだ。乗組員の諸君、私の考えにもし賛同するならば一緒についてきてくれ」
 一息ついてから、大場は続ける。
「ただし、賛同しかねる乗組員もいると思う。これから六十分間考える時間を与える。日本国に残りたいものは『ひゅうが』まで救命ボートで行き、ヘリで帰国してくれ。以上だ」
 すぐに大場の専用電話に電話が入る。『ひゅうが』艦長の武本からだった。
「大場くん、よく言ってくれた。私も全く同じ考えだ。今の宣誓はこちらの乗組員360名全員が聞いた。言われた通りヘリをいつでも飛ばせるように待機させる。私のカンでは、六十分後にはランデブーだな」