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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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『首相官邸 永田町』 十二月二日


 内閣総理大臣である大河内一郎は、首相官邸で行われる記者会見のマイクを通して次のような言葉を述べた。
「エターナルという独立国家についてですが、日本国として当然容認できるものではありません。もちろんこの行為は合法的ではなく、仮に経済的、国際的に独立を求めているのであれば厳しい対応に踏み切らねばなりません。……治安出動もありえると思っていただいて結構です」
 記者を見廻しながら、テレビカメラを意識して大河内は続ける。彼は演説の間をとるのが非常に卓越している。
「国民の皆様に申しあげます。このエターナルという国家に興味を持ち、入国を考えている人たちがいるという情報もありますが、決して情報に踊らされないようにしていただきたい。日本国はエターナルを『四国への侵略者』ととらえ、厳しく対応する予定です」
「ではエターナルが、刑法第七十七から八十条での『内乱』に関する罪にあたるということでよろしいですか?」
 女性記者の一人が立ち上がり、興奮した様子で質問する。
「はい。そこには“国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者”とあります。広義に解釈をするとこれに該当しますね」
「もう一度確認させて下さい! 総理は、『自衛隊による治安出動が、将来ありえるかもしれない』とおっしゃっているんですね」
 耳にペンを挟んだ古参と思われる記者が、女性記者に代わって大声で質問する。
「止むを得ない場合にはありえるでしょう。未確認ですがエターナルには新しい化学兵器があるという情報もあります。脅威は即刻排除せねばなりません。では、これで記者会見を終わります」
 大河内は最後に厳しい目をして、カメラを睨み付けた。その眼の奥には、歴代総理大臣に見られないような凶暴な光が潜んでいる事に誰も気づいていなかった。
「聞いたか? これは大変な事になるぞ。夕刊のトップを差し替えろ! まず号外を出せ!」
 総理のはっきりした答えを聞いた瞬間に、記者たちは我先にと部屋を飛び出して行った。
 美香もこの記者会見場にいたが、政府の厳しい対策を聞いて驚愕していた。こんなに早い政府の対策は今まで見たことがない。
 外交問題や憲法九条問題にいつも消極的な政府が、武力交渉をすぐにほのめかすなど初めてのことだ。いったい政府は何を焦っているのだろう。
 それとも――他に隠したい何かがあるのだろうか。長年マスコミ界にいる美香だが、このときの違和感が何なのか自分でも分からなかった。



『地下六十階・B‐ブロック コンピュータ室』 十二月二日 同時刻


 愛里に手紙を書いて一週間が経った。先ほど美奈が部屋に入ってきて、ウインクと共に手紙をそっとデスクに置いた。早速手紙を開けてみると、見覚えのある懐かしい愛里の文字が並んでいる。恥ずかしいが、この時少し目が潤んだ。
[海人、元気にしてるかな? 私は元気だよ。地上では昨日、太田さんが作った組織が日本政府に独立宣言をしたわ]と始まり、前半は独立宣言の夜のことや、政府の記者会見の様子が書いてあった。
[あなたにマーカーが来たということは、何か特別なモノがあるってことよ。私の想像だけど、D・N・Aにヒントがあると思うの。海人にはあって他の人にないモノ……。颯太ならきっと見つけてくれると思うから、彼と協力して欲しいの]
 可愛い字で手紙は続く。
[颯太の件はあなたに隠していたわけじゃないけど、昔ね、颯太に告白されたことがあるの。あなたと付き合って一年ぐらい経った頃かな。もちろん断ったけれど、颯太は、「勝手にずっと好きでいるから」って言ってたわ]
 ここまで読んで、俺は納得した。颯太は何かにつけて愛里の事を聞いてきた。三人で遊んでいる時も、颯太の目は愛里だけを見ていたんだ。
[最後に、あなたは施設を脱出するって言っていたけれど、絶対にダメよ。『クリスマスの悲劇』は必ず起こるからそこにいて。もう……誰にも止められない。でもね、いいニュースもあるのよ]
――クリスマスの悲劇? 
 俺は最後の一枚を食い入るように読んだ。
[地上に出来た国家は『エターナル』って名前なの。そこに極地戦術核対応のL・D・Fって装置が設置されている。パパがMICの本社をエターナルに移して、社員や家族をできるだけ集め始めているわ。……『フェアじゃない』って言い張るパパの説得に凄く苦労したけどね]
 少しだけ安心した。だが、戦術核対応ってどういう事だろう。
 文面から察すると、どうやら愛里は核攻撃の正確な日にちを把握しているようだ。
[何とか颯太とうまくやってね。彼はヤケになると、何をしでかすか分からないから。冗談とかじゃなく、彼は天才よ。それじゃまた。……大好きだよ海人]
 最後の「大好きだよ海人」というセリフは、ひよこの絵のふきだしに書いてある。
 このL・D・Fという装置のことは何も知らないが、愛里が施設に入れないなら俺が地上に会いに行くしか方法はない。彼女がいないなら、俺がこの先この施設にいることに何の意味もない。二十五日までに脱出しなければと、この時固く心に誓った。
「颯太とまた話さないといけないな」
 手首に光るマーカーと手紙を、複雑な思いで見つめた。



『エターナル・広報室』 十二月二日 


 エターナルの本部は松山市にある。今日はトップ5の全員が広報室に顔を揃えていた。
 議長の太田は集まった面々にこれからの方針を読み上げる。
「まずエターナルにつながる三つの橋のうち二つのルートを封鎖しました。すなわち児島から坂出ルート、尾道から今治ルートは今後しばらく使用できなくなります。使用できるのは神戸から鳴門に繋がるルートのみになり、ここでの往来は臨時パスポートを持ったものしかできなくなります」
 プロジェクターに映された四国の地図を指しながら、説明を続ける。
「同じように、松山空港以外の高知空港、高松空港、徳島飛行場は封鎖します。香川県にある陸上自衛隊第十四旅団は速やかに日本国に撤退していただきます。この点についてのみ、防衛省とすでに交渉済です。万が一こちらに取り込まれたら脅威になると判断したのでしょうね」
 苦笑いしながら太田は続ける。
「次に、旧四国には約400万人の住民がいます。数年前からの潜入作戦と、意識調査の結果から住民が流出するのは思ったより少ないようです。何といいましても舟木さんの出身が旧四国ということもあり、舟木さんが居るならついていくという住民が多いのです」
 ここで、舟木が待ってましたとばかりに立ちあがった。
「わしは演歌界のドンとなってからも、地元を大事にしてきた。旧四国の発展のため寄付も欠かしたことはない。そして四県のお偉いさんや地元の有力者は、わしの同級生や知り合いだ。彼らは主な支援者でもある。どーんと任せんかい! はっはっは!」
 機嫌がよさそうに、ばんっとテーブルを叩いた。確かにこの人の長年の根回しがなければ、人心掌握にもっと時間がかかったかもしれない。
「ではここで、那智博士からお話があります。那智博士どうぞ」