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かざぐるま
かざぐるま
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欲望の方舟 ~選ばれしモノたち~

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集結


『レジスタンス・東京事務所』 十月十四日 


 ここは東京にある『日独連』の事務所だ。表向きは不動産会社になっている。
「太田君、たびたび呼び出されるのはかまわんが、そろそろ例の計画を進めないといかんのじゃないかね」
 トップ5の最後の一人、舟木浩一は事務所のソファーにふんぞり返り不機嫌そうに言った。
 いかつい顔に白い口髭をたくわえて、高級な着物を着こなしている。だが、さすがに長年の贅沢からか腹はでっぷりと張り出していた。芸能界で大成功した演歌の大御所であり、富も名声も十分に彼は手にしていた。
「舟木さん、今日はそのことでお話があります。舟木さんの弟子の綾小路くんは少し知名度がありますので、誰か他に適当な歌手の方はいらっしゃいませんか」
「ふむ。売れてない演歌歌手といえば……デビュー間もない神村なんとかという新人がおるが」
 少し考えた後、思い出した様に言った。
「ではその人で行きましょう。これから早速準備に取り掛かります。チケット販売は一週間後を予定しております」
 びっしりと書き込まれたメモに、太田は何かを書き込んでいる。
「前代未聞の騒ぎになるぞ、これは。はっはっは!」
 豪快に笑い飛ばし大きな体を窮屈そうに椅子から抜き出すと、ガラス張りのオフィスを後にした。
「相変わらず豪快なおじいちゃんね」
 後ろを振り向くと、いつの間にか吉永愛里が、車の鍵をくるくる回しながら立っていた。
「愛里か。そうだ、先日受け取ったMICの内偵報告書のことで一つ疑問があるんだが」
(こいつはまるで忍者みたいだな)と内心思ったが、驚いた顔は見せずに質問した。
「どうぞ。でもあれが限界よ。私がMIC社長の娘だからって、情報がぜーんぶ手に入るわけじゃないのよ」
 愛里はオフィスの椅子にちょこんと座ると、形のいい脚を組み直す。
「わかってる。MICが四国に作った地下施設、つまりシェルターがすでに完成していると仮定する。そこに入る資格と、もし密かに潜入するとしたらその場合の潜入方法は分からないのか? 社長は大事な娘を絶対にそこに避難させるはずだが」
「私も内偵を進めているんだけど、ハッキリしないのよ。分かっているのは遺伝子に関係あるってことと、資格者と呼ばれる人たちだけに、何か特別なモノが送られて来ること。潜入方法については、世界トップレベルのセキュリティに守られているから、シェルター内部に協力者がいないと絶対に不可能ね」
 少し愁いを含んだ瞳をしながら続ける。
「そして『日独連』が私に一番期待してること。その期待には添えそうもないわ。……だって、私でさえシェルターに入る特権はないもの」
 すっと立ち上がると窓際まで行き、外の景色に目をやりながら小さな声で続けた。
「パパにだって――ないのよ」
 太田は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに冷静な顔に戻る。
「そうか、分かった。もうプロジェクトは社長の手を離れているということだな。うーん、そうなると厄介だな」
 愛里の母の死の真相を暴く事に協力をする交換条件として、レジスタンスに彼女を引き入れた。いま組織にとって大事なのはシェルターの全容を知る事と、セキュリティ関係を把握している人物を探し出す事だった。
 もちろん彼女の件は協力するつもりだが、当人が施設に入れないなら他の手を打つしかない。
(この四国は我々のものだ。たとえ地下といえ、レジスタンスが知らない秘密があってはならない)
 だがレジスタンス強硬派の『侵略された時の保険としてMICのシェルターを力づくでも奪うべきだ』という意見には、太田はついに首を縦に振らなかった。
「お母さんの件は任せてくれ。俺にとって京子さんは信頼できる上司だったし、死の真相を暴きたいと思う気持ちは同じだ」
 愛里の近くに歩み寄ると彼は優しく肩に手をかけた。



 一週間後


 スポーツ新聞に『新人、神村洋子! 十二月一日の四国公演チケットが、5分で3000枚完売!?』という記事が載った。
 この日からネット上では、今まで売れてないこの演歌歌手の情報が飛び交い、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
[誰だよ、この女。今まで聞いたことない名前だぞ]
[舟木浩一事務所の新人演歌歌手らしいけど、誰か知ってる? 情報求む]
[今まで歌さえ聞いたこと無いんだけどなー。なんでチケットが3000枚も売れるんだ?]
 彼らが疑問に思うのも当然である。真実を知ったら彼らはきっと驚くだろう。

 チケットを買った人は全て“レジスタンスのメンバー”なのだから……。



 十一月一日 早朝


 四国に向かう飛行機の中で、千歌は居間に置いてきた手紙を思い出していた。
[お父さん、お母さんごめんなさい。あたしは神に選ばれました。これから安全な所で暮らします。心配しないでね。本当はこれは絶対に言っちゃいけないんだけれど、ヒントだけ書いておきます。『サンタさんが死を持って来るの。その前にビルの見えない場所に逃げて』これが限界です。お父さんやお母さんにも幸せの腕輪が届くことを祈っています。今まで育ててくれてありがとう。……さようなら]
 資格者だけには、悲劇の日の情報が伝えられていたのだ。千歌の右手は、左腕に着けているマーカーを愛おしそうに撫でていた。
「皆様、ただ今松山空港に着陸いたしました。皆様の安全の為、ベルト着用のサインが消えるまで座席にお座りのままでお待ち下さい」
 軽い衝撃とアナウンスで現実に引き戻され、いつの間にか流れ出ていた涙を素早くハンカチで拭った。
 空港から出ると黒塗りの高級車が、千歌の前で音もなく止まった。背が高く目がキリッとした女性と、背の低いグラマーな女性が車から降りてきた。
「水野千歌さんですね。お待ちしていました。これから施設へご案内致します。早速ですがWEB‐EYEを預からせていただきます。ここからは、外部との通信等はできませんので」
 背の高い女性にWEB‐EYE渡すと、千歌は車の後部座席に乗り込んだ。
「では簡単に施設のご説明をさせていただきます。あなたの入るところはB‐ブロックと呼ばれる場所で、女性しかいません。施設内ではスポーツもできますし、映画館や人工のビーチもあります。食事も美味しいはずですよ」
 背の小さい女性は笑顔を作り、早口で続ける。しかし、何故か千歌はこれまで一言も口を聞かない。
「あと施設内は、みなさまのお世話をするスタッフは存在しませんが、ほぼ全て機械化されていますので問題ありません。他の細かい所は、B‐ブロック内でコミュニティを作ってうまく生活して下さい。そして気になる収容期間ですが……。今は何とも申し上げられません」
「えっ?」
 ここで千歌は初めて口を開く。
「じゃあ、一生施設の中にいるって可能性もあるってことですか?」
「その質問に対しては、お部屋の端末がNoah2のブレインシステムに繋がっていますので、中に入ったらご自分でアクセスしてみてください。私たちにも、資格者を集める目的と期間は知らされておりません。単に大規模な心理実験だと勝手に推測していますが……」