ミーシャの冒険 10
「それで、ミーシャちゃんは、どうしたいの?」
自宅から闇姫の城に跳んだミーシャは闇姫からそう問われた。
あっという間に移動できるフローラの術は慣れてしまうととても便利だ。
まるで予想していたかのようにお茶会の準備をしていた闇姫は、いきなり現れたミーシャ達に驚く様子もなく、椅子を勧め、ちょっと言葉に含みを持たせてそう尋ねたのだ。
「私の目的は1つです」
「それは分かっているのよ。最初から」
「なら・・・」
「私が知りたいのは、街をどうしたいの?」
「どうって・・・」
「ミーシャちゃんは私に街を滅ぼすことも、その女の子をここに連れてくることもお願いすることが出来るのよ」
「・・・」
「でも、ミーシャちゃんはしないでしょ?」
「はい・・・」
「まあ、まずはスコーンでも召し上がれ♪」
右隣に座った実体のフローラは既にスコーンに山盛りのクロテッドクリームを塗りつけてぱくついている。
左隣のエリカはバタートーストに夢中
「ほらほら、フローラ、あわてないの」
口の端にべったりとついたクリームを拭うと、フローラは気持ちよさそうに目を細めた。
ミーシャは自分もスコーンを取ると、木イチゴのジャムを塗りつけて口に運んだ。
魔族と協力、と言っても明確なビジョンがあるわけではない。
自分だけであればフローラの協力だけで十分なくらいである。
しかし、村の皆が森に分け入るとなると、何が必要になるのだろう。
武器、特に盾や弓矢を作るとなると大量の木材が必要になる。
鉄を作るには更に大量の木材が必要だ。
街からの攻撃に備えて陣地を作ったり、武器や水、食料を備蓄しておかなければならない。
森からの侵攻にも浜通りからの侵攻にも備えなければならない。
そもそも街ってどのくらい人がいるのだろう?
街ぐるみで少女をさらっているのか?
取り戻すとして、自分の村だけで何とかなる問題だろうか?
そこまで考えて、ミーシャは実は何一つ分かってはいないと言うことに気が付いた。
「まずは、自分の目でちゃんと確かめたい」
「うん」
闇姫は優しい笑顔で聞いている。
「でも、それに時間を掛けていて連れ去られる人が増えたんでは意味がないんだ」
「うん」
「だから、魔族にお願いしたいのは、森を使って人をさらっている、連中の仕業を妨害してほしい」
「うん」
「そして、事実が見分けられた時、それを他の人達に知らせる手伝いをして欲しい」
「うん」
「そして、戦いが避けられないのなら、勝てるように手助けをして欲しい。勝手だけど」
「分かったわ。魔族のみんなには私から伝えておくから、ミーシャちゃんは思うとおりになさい」
闇姫は手にしたティーカップを静かに置くと、かき消すように姿を消した。
作品名:ミーシャの冒険 10 作家名:春本 美穂