世田谷東署おちこぼれ事件簿1-4
交番で聞き込んだ牛丼店店長とのトラブルの線は、山本刑事の言った通りあっさりと消えた。店長の山田新吾は犯行時間に「吉名家」の丼を手に持っていたが、勤務中で事件とは無関係と判明した。
被害者の妻の関良子と愛人の金子正次の可能性は、被害者に多額の保険金を掛けていた事実や、夫への不満など調べるていくと犯人の可能性が高まっていった。
さっそく関良子と金子正次に任意で取り調べたが、肝心の犯行時間のアリバイが二人とも揃ってあった。
二人は犯行時間にホテルで浮気の真っ最中だったと同じアリバイを証言した。
二人のアリバイの裏をとるためホテルでの聞き込みを行なった。するとホテル駐車場の出入口りに設置されている防犯カメラに良子達の乗った金子正次の所有する車が撮影されていた。車のナンバープレートと、二人が運転席と助手席に仲良く並んでいる所も映されていて二人のアリバイは成立した。
残念ながらこの時点では事件解決に至らなかったが、関良子の尋問の際に気になる話が引っ掛かってきた。
「あの人が集めてる招き猫なんだけど」
「そう言えば玄関にも沢山ありましたね」
「中には高いのあるみたいなんだけど」
「そうでしょうね」
「ライバルがいるの」
「ライバル?」
「オークションで骨董物や高額品をいつも張り合ってる収集敵よ」
「招き猫の収集敵ですか」
「目当ての品物を収集敵と競り落としたり競り落とされたり何度もしてたの」
「その収集敵がご主人を襲ったと」
「二週間前に、収集敵が欲しがってる物をわざと値をつり上げておいて、三千万円寸前で自分はサッと手を引いて収集敵に予定額よりも高値で落札させて買わせたのよ。そしたらオークションが終わってから会場で、その収集敵が殺してやるて喚いて掴みか掛かって来て喧嘩になったの」
「喧嘩に」
「三日前にも嫌がらせの電話みたいのが何度もあったから今でも恨んでる筈だわ」
関良子は自分に掛かった疑惑を払拭しようとしたのだろうか、口も軽くベラベラと自分から喋った。
招き猫の収集敵の名前は、オークション会社への聞き込みで分かった。大井次郎、五十代後半て下北沢に住んでいると分かった。関良子によるとその男は大柄な被害者と同じく位の背格好だったと話した。
その時、刑事課に電話が入った。
「逮捕した!よし!」
電話を受けた南田係長が思わず叫んだ。
「山さん、連続強盗のホシを逮捕したぞ。山さんの方のヤマも解決だな」
世田谷東署管内で起きていた連続強盗事件の犯人が警戒していた捜査員に現行犯で緊急逮捕されたのだった。
署に連行されて来た犯人は背丈が百六十五センチと小柄だった。
「以外に小柄だな?」
山本刑事は逮捕された連続強盗犯の思ったよりも背が低く小柄だったのがちょっと引っ掛かった。
「そうですね弱そうですね」
直ぐに男の取り調べが始まり、容疑者の男はあっけなく犯行を認めた。しかし、やったと認めたのは三件の事件だけで豪徳寺の事件は自分ではないと犯行を否定した。
しばらくして鑑識課の真田主任が刑事課にやって来た。
「山さんの方も解決しちったかな」
「いやまだだ」
「無駄かも知れないが、これ」
真田主任は持っていた書類を山本刑事に渡した。
「例の現場にあった動物の足跡だけど狸のものだった」
「狸、町中に狸がいるのか」
山本刑事は狸の存在が以外だった様だ。
「います。交番にいた頃、庭に狸がいると言った通報がありましたから豪徳寺にもいてもおかしくないです」
「狸ね」
「そうか狸だ。ちょっと行ってきます」
「鬼平、どこ行くんだ」
「豪徳寺の現場で確かめたい事があるので行ってきます」
純平は急いで署を飛び出した。
豪徳寺の現場に着いた純平は、被害者が襲われて倒れていた場所を中心に狸が入り込みそうなお堂の縁の下等を這いつくばって探し始めた。
「鬼塚さんでしたか、どうしたんですか」
巡回途中だった豪徳寺駅前交番の警官が純平に声を掛けた。
「もしかして狸が窃盗事件の犯人じゃないかと思ってね」
「手伝います」
「ありがとう」
交番の警官も加わって狸の捜索が行われた。本堂の床下や墓地まで範囲を広げて捜索が続けられた。
「あった!ありました」
境内の墓地の近くにある物置小屋の床下から、泥と蜘蛛の巣だらけの純平が出てきた。純平の手にはビニール袋が握られていた。
「狸さんは、被害者が買った鴨肉をビニール袋ごとくわえてここまで運んだんですね」
ビニール袋に入っていた筈の鴨肉は狸の胃袋の中に消えた様だが、肝心の被害者の財布はそのまま残されていた。
純平は署に戻り山本刑事に結果を報告した。
「盗難の犯人は狸でした」
「窃盗は狸の犯行か、ところで財布の中身が葉っぱに化けてなかったか、大丈夫か」
「狸を逮捕しますか・・・でも山本刑事の思った通りでしたね」
「ああ、あの小柄な連続強盗犯の犯行にはちょっと無理がある」
連続強盗事件の三件とも狙われた被害者は女性ばかりで、脚などを強打して被害者が怯んだすきに金を奪っている。凶器も金属バットだし、豪徳寺事件の被害者関孝三は背丈が百八十五センチと大柄。逮捕された連続強盗犯は百六十五センチと小柄だ。襲うには獲物が大きすぎると山本刑事は思ったのだった。
そこに、これから勤務交代で交番に出掛ける前に立ち寄ったと、三軒茶屋駅前交番勤務の警官が刑事課にやって来た。
「立花さん、どうしたんですか」
刑事課に訪れた警官は、純平が交番勤務の時に何かと面倒を見てくれた指導担当の先輩警官の立花良之助だった。
「自分が非番の時に事件の事で交番に山本刑事と一緒に来たと聞いたので」
「立花さんお元気でしたか」
山本刑事も懐かしそうに立花巡査に挨拶した。
「やー、久しぶり」
立花巡査は今年定年を迎える、山本刑事にも先輩の警官だった。
「わざわざすいません関孝三の事で何かありましたか」
「事件と言う事にはならなかったけど、関質店で騒ぎがあったんでね」
立花巡査は関質店で喧嘩騒ぎがあり、驚いた隣の住民が質屋だけに強盗でも押し入って騒いでいるのではと思い交番に通報した。それで立花巡査が関質店に駆けつけたのだった。
「店に到着した時には金を返せ返さないと口論してました」
「金銭トラブルですかね」
「自分が店に入ると二人とも急に喧嘩を止めたのです。何も無かったみたいに」
「警察に聞かれちゃまずいもめ事だったんでしょか」
「二人とも何もなかったと言うので事件にもならずでしたので調書も有りません」
「そうでしたか」
「でも、その男の名前と住所を聞いておいたのです」
「たすかります」
「大柄な男で、もめていた関孝三と同じ位の背丈でした」
「ありがとうございます」
「名前と住所だけで申し訳ない」
「いやー助かります」
立花巡査は山本刑事にその男の名前と住所の書かれたメモを手渡して交番勤務に向かった。
「金田広司、住所は調布か。もしかして本庁の探っている線かも知れんな、後で特捜さんに聞いてみる」
「私も他にも気になる事を聞いてきました」
「何だまだあるのか」
「豪徳寺の住職さんが話してくれたのですが」
「話には聞いていたが、やっぱり問題の多いおやじだな。今度はどんな事件だ」
被害者の妻の関良子と愛人の金子正次の可能性は、被害者に多額の保険金を掛けていた事実や、夫への不満など調べるていくと犯人の可能性が高まっていった。
さっそく関良子と金子正次に任意で取り調べたが、肝心の犯行時間のアリバイが二人とも揃ってあった。
二人は犯行時間にホテルで浮気の真っ最中だったと同じアリバイを証言した。
二人のアリバイの裏をとるためホテルでの聞き込みを行なった。するとホテル駐車場の出入口りに設置されている防犯カメラに良子達の乗った金子正次の所有する車が撮影されていた。車のナンバープレートと、二人が運転席と助手席に仲良く並んでいる所も映されていて二人のアリバイは成立した。
残念ながらこの時点では事件解決に至らなかったが、関良子の尋問の際に気になる話が引っ掛かってきた。
「あの人が集めてる招き猫なんだけど」
「そう言えば玄関にも沢山ありましたね」
「中には高いのあるみたいなんだけど」
「そうでしょうね」
「ライバルがいるの」
「ライバル?」
「オークションで骨董物や高額品をいつも張り合ってる収集敵よ」
「招き猫の収集敵ですか」
「目当ての品物を収集敵と競り落としたり競り落とされたり何度もしてたの」
「その収集敵がご主人を襲ったと」
「二週間前に、収集敵が欲しがってる物をわざと値をつり上げておいて、三千万円寸前で自分はサッと手を引いて収集敵に予定額よりも高値で落札させて買わせたのよ。そしたらオークションが終わってから会場で、その収集敵が殺してやるて喚いて掴みか掛かって来て喧嘩になったの」
「喧嘩に」
「三日前にも嫌がらせの電話みたいのが何度もあったから今でも恨んでる筈だわ」
関良子は自分に掛かった疑惑を払拭しようとしたのだろうか、口も軽くベラベラと自分から喋った。
招き猫の収集敵の名前は、オークション会社への聞き込みで分かった。大井次郎、五十代後半て下北沢に住んでいると分かった。関良子によるとその男は大柄な被害者と同じく位の背格好だったと話した。
その時、刑事課に電話が入った。
「逮捕した!よし!」
電話を受けた南田係長が思わず叫んだ。
「山さん、連続強盗のホシを逮捕したぞ。山さんの方のヤマも解決だな」
世田谷東署管内で起きていた連続強盗事件の犯人が警戒していた捜査員に現行犯で緊急逮捕されたのだった。
署に連行されて来た犯人は背丈が百六十五センチと小柄だった。
「以外に小柄だな?」
山本刑事は逮捕された連続強盗犯の思ったよりも背が低く小柄だったのがちょっと引っ掛かった。
「そうですね弱そうですね」
直ぐに男の取り調べが始まり、容疑者の男はあっけなく犯行を認めた。しかし、やったと認めたのは三件の事件だけで豪徳寺の事件は自分ではないと犯行を否定した。
しばらくして鑑識課の真田主任が刑事課にやって来た。
「山さんの方も解決しちったかな」
「いやまだだ」
「無駄かも知れないが、これ」
真田主任は持っていた書類を山本刑事に渡した。
「例の現場にあった動物の足跡だけど狸のものだった」
「狸、町中に狸がいるのか」
山本刑事は狸の存在が以外だった様だ。
「います。交番にいた頃、庭に狸がいると言った通報がありましたから豪徳寺にもいてもおかしくないです」
「狸ね」
「そうか狸だ。ちょっと行ってきます」
「鬼平、どこ行くんだ」
「豪徳寺の現場で確かめたい事があるので行ってきます」
純平は急いで署を飛び出した。
豪徳寺の現場に着いた純平は、被害者が襲われて倒れていた場所を中心に狸が入り込みそうなお堂の縁の下等を這いつくばって探し始めた。
「鬼塚さんでしたか、どうしたんですか」
巡回途中だった豪徳寺駅前交番の警官が純平に声を掛けた。
「もしかして狸が窃盗事件の犯人じゃないかと思ってね」
「手伝います」
「ありがとう」
交番の警官も加わって狸の捜索が行われた。本堂の床下や墓地まで範囲を広げて捜索が続けられた。
「あった!ありました」
境内の墓地の近くにある物置小屋の床下から、泥と蜘蛛の巣だらけの純平が出てきた。純平の手にはビニール袋が握られていた。
「狸さんは、被害者が買った鴨肉をビニール袋ごとくわえてここまで運んだんですね」
ビニール袋に入っていた筈の鴨肉は狸の胃袋の中に消えた様だが、肝心の被害者の財布はそのまま残されていた。
純平は署に戻り山本刑事に結果を報告した。
「盗難の犯人は狸でした」
「窃盗は狸の犯行か、ところで財布の中身が葉っぱに化けてなかったか、大丈夫か」
「狸を逮捕しますか・・・でも山本刑事の思った通りでしたね」
「ああ、あの小柄な連続強盗犯の犯行にはちょっと無理がある」
連続強盗事件の三件とも狙われた被害者は女性ばかりで、脚などを強打して被害者が怯んだすきに金を奪っている。凶器も金属バットだし、豪徳寺事件の被害者関孝三は背丈が百八十五センチと大柄。逮捕された連続強盗犯は百六十五センチと小柄だ。襲うには獲物が大きすぎると山本刑事は思ったのだった。
そこに、これから勤務交代で交番に出掛ける前に立ち寄ったと、三軒茶屋駅前交番勤務の警官が刑事課にやって来た。
「立花さん、どうしたんですか」
刑事課に訪れた警官は、純平が交番勤務の時に何かと面倒を見てくれた指導担当の先輩警官の立花良之助だった。
「自分が非番の時に事件の事で交番に山本刑事と一緒に来たと聞いたので」
「立花さんお元気でしたか」
山本刑事も懐かしそうに立花巡査に挨拶した。
「やー、久しぶり」
立花巡査は今年定年を迎える、山本刑事にも先輩の警官だった。
「わざわざすいません関孝三の事で何かありましたか」
「事件と言う事にはならなかったけど、関質店で騒ぎがあったんでね」
立花巡査は関質店で喧嘩騒ぎがあり、驚いた隣の住民が質屋だけに強盗でも押し入って騒いでいるのではと思い交番に通報した。それで立花巡査が関質店に駆けつけたのだった。
「店に到着した時には金を返せ返さないと口論してました」
「金銭トラブルですかね」
「自分が店に入ると二人とも急に喧嘩を止めたのです。何も無かったみたいに」
「警察に聞かれちゃまずいもめ事だったんでしょか」
「二人とも何もなかったと言うので事件にもならずでしたので調書も有りません」
「そうでしたか」
「でも、その男の名前と住所を聞いておいたのです」
「たすかります」
「大柄な男で、もめていた関孝三と同じ位の背丈でした」
「ありがとうございます」
「名前と住所だけで申し訳ない」
「いやー助かります」
立花巡査は山本刑事にその男の名前と住所の書かれたメモを手渡して交番勤務に向かった。
「金田広司、住所は調布か。もしかして本庁の探っている線かも知れんな、後で特捜さんに聞いてみる」
「私も他にも気になる事を聞いてきました」
「何だまだあるのか」
「豪徳寺の住職さんが話してくれたのですが」
「話には聞いていたが、やっぱり問題の多いおやじだな。今度はどんな事件だ」
作品名:世田谷東署おちこぼれ事件簿1-4 作家名:力丸修大