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感動したのかな?

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感動したのかな?





 先週の金曜日の日中に乗車して地名を云い「あそこにあるテレビ局まで行ってくれる?」
と云う乗客があった。背が高くていわゆるイケ面の男で、年齢は三十ちょっとくらいだろうか。
 そのビルの手前で信号待ちになったとき「急いでいるからここで精算だな」と、俳優っぽいその乗客は云った。
 運転席横のセンターコンソールの上に五千円札が置かれた。
「わかりました。料金は四千四百六十円ですので、五百四十円をお返しします」
 硬貨とレシートを手渡すと間もなく信号が変わったので私は急いで車を発進させ、テレビ局の車寄せを目指したのだが、
「手前のバス停のところで止めてくれる?」
 そう云われて車を停止させた。
 乗客が車外に出るときに、五千円札は既に消えていた。料金詐欺である。テレビ局の玄関に姿を消した男に関して、私はその男が俳優ではなく、下っ端のADか何かだと悟った。これから先の人生は前途多難だろうと、可哀想な奴だと憐みながら。

 半日後の深夜にいつもの駅から乗車したのは、態度や独特の服装、ことば使いからすぐに「ヤ」のつく商売の男たちらしいと気付いた。私が最も苦手なタイプの四人だった。また料金を支払ってもらえないのではないかと、私は既に半ば諦めていた。だが、乗車拒否は営業停止にされるような最も重い罪なのである。私は如何にも快活を装い「ありがとうございます。よろしくお願いします」と笑顔を見せて云った。だが、そのとき私の膝は小刻みに震えていた。
 四人はかなり遠いところまで乗車することになった。彼らは仲間同士のやりとりの中で「このやろうぶっ殺されてえのか!」などと云い合っている。また、かなり卑猥なことばを多用しながら、余り聞きたくない冗談を飛ばし合っている。
 私は早くこの乗客たちとの「他生の縁」を切りたいと思いながら車を運転しているのだが、目的地がかなり遠いのでそう思っても仕方がないことだと諦めた。
一時間余り経って漸く目的地に到着すると、私に恐怖を感じさせ続けた男たちはかなり高額の料金を文句も云わずに支払ってくれた。そして降りるときにこんな遠いところまでありがとうと口々に礼を云い、深夜の仕事は辛いだろうけれども頑張ってくださいと激励し、事故に遭わないように気をつけて……そんなことまで云ってくれたのだった。
私はほっとし、窓を開けてきれいな冬の星座を眺めながら、偏見をもっていたことを反省し、心の中で彼らに謝罪していた。

                   了
作品名:感動したのかな? 作家名:マナーモード