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関西夫夫 すっぽん

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沢野というおっさんは、性質が悪い。ポンッと高級品を送ってくるが、それ以外には連絡も何もない。水都が言うには、これが、たぶん、何個か届くはずや、と、明言した。
「昔な、沢野のおっさんが、まだ社長やってた頃、いきなり毎日、立派な幕の内弁当を食わせたくれたことがあってな。十日ほど続いて、それから、いきなり、『悪いけど、これやってな? 』って、えらい仕事を押し付けられたことがある。・・・・兎に角、先に何かしてくれるんや。ほんで、最終的に、それに見合う仕事がくる。せやから、二週間の出張にしたいと思たら、これから毎月、なんか届くと思う。受け取り拒否とかしても、また送られてくるから意味が無い。」
 過去から、そういうことがあるらしい。そして、俺の眼の前にはチルドの宅配便が鎮座している。

「スッポン鍋セット」

 と、書かれている。どうせ、これに見合うだけこき使われるから食うしかないというので、今晩の予定は、これや。俺も、さすがに現物を目にすんのは初めてで、箱を開けた。
 スープと五センチくらいに切られた白ネギと真空パックになったブツと説明書が出てきた。とりあえず、これらをぶち込んで煮るとスッポン鍋になるらしい。で、噂に聞く雑炊は、その具剤を食べた後に作るように、と、説明書にある。

・・・・ということはや・・・まず、スッポンを煮てから、雑炊作って冷ましといたら、ええっちゅーことか・・・・・


 俺の嫁は、超絶猫舌なので鍋なんか、そのまま食わせたら、確実に口内ヤケドをする。雑炊なんか冷蔵庫で冷やしたヤツが好き、という、おかしな生き物なので、熱々の鍋の〆に、熱々の雑炊なんかしたら、死ぬと予想できる。いや、俺は普通なんで、熱々の鍋と雑炊は美味いと思うんやけど、女房が一緒に食えへんでは意味が無いから、一緒に冷ましたヤツを食う。

・・・まあ、ええか。とりあえず煮よやないか・・・・・


 真空パックのブツを取り出して、ちょっと退く。甲羅が、まんま出てきた。あと、内臓とか足とか頭もある。えぐいなあーと思いつつ、でも出汁が出るので鍋に全部投げる。そして、付属の出汁をドボドボと注ぎ込み、火をつけた。それから白ネギを入れて放置する。その間に、冷蔵庫からタマゴとネギを取り出して準備する。メシは冷凍したのがあるから問題ない。鍋が沸騰すると、ショウガのいい匂いがしてくる。臭い消しの目的もあるのだろう。沸騰したら中火にして、アクを掬い、白ネギが柔らかく煮えてから、しばらくして火を止めた。食べられそうな身の部分とか、正体不明の内臓部分なんかは取り出して、別の器に盛る。どう見ても退く部位は、そのまんま、「すんませーん。」と、生ゴミとしてほかした。たぶん、これを見せたら、俺の嫁は食わないであろうと予想されるからだ。大概のもの、まずかろうが甘かろうがしょっぱかろうが食うことに問題のない俺の嫁だが、ゲテモノは食わない。
 以前、スズメの焼き鳥を出したら、ゴミ箱に直行させよったからや。原型のものはあかんらしい。エスカルゴは食えるのだが、さすがに足とか頭はあかんやろう。というか、俺もあかん。それから、冷凍していたごはんを出汁に入れて雑炊を作成し、これを、嫁の分だけ取り分けて冷蔵庫に入れた。これで準備は完了。



「へぇー、なんか、よーわからんなあ。」
 食卓に並べられた器に目を落として、俺の嫁の感想は、こんなとこやった。卵巣が大小のタマゴを何個かブツブツしているのは、いらんかったらしく、それは俺の器に投げた。
「これ、栄養あるんちゃうか? 」
「内臓なんか食えるか。きっしょいっっ。・・・・うーん、なんかアンコウみたいやなあ。」
「そうやな、そんな感じかな。まあ、食うてみよやないか。」
 出汁から、ふたりしてずぞーと飲んでみたら、これは美味かった。ショウガの効いた出汁で、あっさりしているがコクはある。俺の嫁も、へぇーという顔をしている。身も、ぷりぷりして、アンコウより弾力があるので、噛み応えもええ。
「これ、なんぼすんねやろ? 」
「ネットで見てたら、二万とか三万。」
「はあ? これ一回で? 」
「おう、一回や。贅沢やな。店で食ったら一人三万とからしいで?」
「あほちゃうか。一ヶ月の食費やんけ。」
「一応、これで今晩、ギンギンになるらしいけど。」
「・・・・いや、無理。俺、食うたら寝たい。」
「はははは・・・まあ、それは後のお楽しみっちゅーことで。」
 出汁の染みた白ネギは、くたりとしておいしい。合いの手に、白菜の漬物を口にしたりして、次に雑炊にも手を出す。俺の嫁の分は、冷蔵庫で冷やしたので、キンキンに冷えているが、当人は、もっちゃらもっちゃらとおいしそうに食う。冷えると固まるから、箸で十分につかめる範囲になるから、それもええらしい。
「出汁が、やっぱうまいねんな。雑炊もええわ。・・・・せやけど、これで三万はいらんな。」
「貰いモンや。金の話はやめとき。・・・・まあ、美味いけど、貧乏人には、あんま盛り上がらんもんやな。」
「地味やからなあ。」
 美味しいのだが、別に食いたくて食ってない。貰ったので、しょうがなく食っているので、美味しくても盛り上がりはない。ぽつぽつとニュースの話をしながら、残りを食べた。食後の一服をして片付けると、こたつに転がる。とりあえず、適当にテレビをつけて見ていると、俺の嫁は、くーすか寝ていた。

・・・・え? なんか、もっと反応とかないんけ? 水都・・・・


 スッポンを食べると元気になる、というのは、基本やと思ってたら効かへん人間もおるらしい。かくいう、俺は、ちょっと目が冴えている。ギンギンではないが、ちょっとやる気が出てきた。
「あの、水都さん? 」
 もちろん、反応はない。淡白すぎませんか? 俺の嫁は。と、嘆きつつ、ずるずるとこたつから引きずり出した。その拍子に、俺の嫁は、「ああ? 」 と、目を開ける。そして、俺の下半身に目をやって、「うそやん。」 と、驚いた。
「悪いねんけど、一回だけ。」
「反応早ないか? 花月。おまえ、プラシーボ効果やろ? 」
「どうでもええから、とりあえず抜かせて。」
「・・・入れてくれてもええで? 準備はしてや? ほんで、俺は出やんでもほっといてくれてええし。」
「いただきます。」
「はい、めしあがれ。」
 平日の夜なので、とりあえず熱を冷ますだけのことはやった。翌日、すっきりしてたから、それなりに効果はあるもんや、と、実感はさしてもらった。
作品名:関西夫夫 すっぽん 作家名:篠義