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関西夫夫 鉄砲

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パソコンの前で、データのチェックをしてたら、電話が鳴った。ほとんどの電話は、事務の人間が捌いてるので、内線で転送されてくるのは、俺宛のものや。今頃、誰や、と、受話器を上げたら、大人気ないおっさんやった。
「久しぶり、みっちゃん。」
「なんや? 報告書は提出してあるやろ? どっかあかんかったか? 別に今んとこ、何もないと思うけど。」
「いや、仕事のことやあらへんね。」
「さよか、ほな、さいなら。またごきんげよー。」
「待たんかいっっ。ちゃんと用事はある。」
「さっさと言え。」
「おまえ、それが上司に対する言葉遣いか? 」
「私用なんやったら、上司もへったくれもあるかい。」
「おまえのパトロンやど? わし。」
「お手当もなんもないパトロンやんけ。ケツぐらい貸したるから、お手当て払えや。」
 この上司、一応、俺の直属の上司である。ついでに、俺のことを愛人やと吹聴するアホなおっさんで、本社でも有名ならしい。ほんまに、ケツを貸したことはないのに、大変迷惑やと思う。大阪にあった会社と中部にあった会社が合併して、今は本社になった中部のほうで、この上司は働いている。たまに、戻ってくるが、最近は、中部のほうが忙しいのか、ご無沙汰していて、大変、俺にとっては有り難い。
「おまえ、おとろしいこと言うなあ。そんなことしてみー、おまえんとこの爆弾小僧が、本気で出刃包丁で、わし、刺すわ。」
「いや、金くれるんやったら、俺かてアリバイ工作して、俺の亭主にはバレんようにする。」
「いらんし。おっちゃん、おまえのケツなんかに突っ込まんでも、不自由してへんから。金欲しかったら、適当に抜いて使うか、会社の経費扱いで、なんでも買うたらええ。」
「俺が、それやったらクビになる。」
「いや、交際費っちゅーのは、そういうので使えるんやで? ちょっとはアブク銭も稼がんかい。」
「わざわざ、面倒なこと教えんなや。俺は、別に欲しいもんなんかあらへん。・・・もうええか? だいぶ、付き合ったったやろ? 」
 この上司、たまに、こんな雑談を仕掛けて来る。中部の言葉ばかり聞いてると寂しくなるとかなんとか言うて、電話してくるのだ。
「用件言うてへんやろーがっっ。おまえに鉄砲を送ったった。」
「ああ? 誰か殺してくるんか? 鉄砲玉にするには、俺、年行き過ぎてないか? それとも、鉄砲玉も調達せなあかんのか? 」
「どあほ。その鉄砲やない。当たったら、ズドンの鉄砲や。」
「せやから。」
「ほんまに、もう・・・日本語くらい勉強しとけ。河豚や。関西では、鉄砲言うんじゃっっ。そんなことも知らんで、よう重役席に座っとるな? 」
「座らせたんは、あんたや。・・・ふぐ? そんな腐るもん、わざわざ中部から送るな。」
「いや、配達してくれるんは、関西から。わしの知り合いのとこから、鍋材料一式を配達してくれるから、食うとけ。それが、用件や。土鍋はあるやろうな? 」
「さあ?・・・・あるんちゃうか? 」
 俺に、そんなもん聞くのが無駄やろう。それは、俺の亭主の管轄や。たぶん、あると思うが、小さいような気はする。おっさんも気付いたらしい。
「もうええ。土鍋もつけといたる。栄養つけて風邪ひかんようにな? みっちゃん。また春になったら、こっちに顔出ししてもらうで?  」
「いらん。監査やったら、データ送ってくれたら、こっちでやるで? 」
「ちゃうちゃう、たまに、わしが顔を見たいから。」
「・・・・死にさらせ、おっさん。」
「はははは・・・五十年後にな。ほな。」
 言うだけ言うと、電話は切れた。ようわからんが、おっさんは、お手当てをくれるらしい。フグなんて、あんま食うこともないので、俺の亭主は喜ぶかもしれない。てか、まだ五十年もしぶとく生きるつもりなのが、強烈で、さすが、おっさん、と内心で誉めておいた。



 家に帰って報告したら、「はあ? 」 という素っ頓狂な声が俺の亭主から出た。
「鉄砲? 」
「なんか送ってくるらしいわ。」
「出入りでもあんのか? とうとう、あのおっさん、やくざに鞍替えか? 」
 俺の亭主も、その言葉は知らないらしい。まあ、俺の亭主は、関西弁は扱っているが、子供の頃は、親の都合であっちこっちと引越ししてたから、ディープな言葉までは知らんのやろう。というか、古い言葉なんやないか? これ。
「おまえも知らんやん。一部で流通してるだけの言葉やねんなあ。」
「ん? 」
「鉄砲ってフグのことやねんて。当たったら、ズドンと死ぬかららしい。」
「へぇー、言い得て妙やな? てか、なんでフグなんかくれるん? また、出張か? 」
「春にな。なるべくは、東川さんに行ってもらうつもりや。」
 本社の会議は、俺ではなくて、東川さんが出向いている。というのも、俺は若造過ぎて、部長には見えへんから、なめられへんように、厳つい顔の人が担当している。また、何かしら本社の監査とかあるから呼び出しされるんやとは思うので、それについては拒否はできない。先に恩を売りつけてくるのが、あのおっさんの、いつもの手や。たぶん、次に肉が来ると思われる。
「それ、いつ届くんや? 」
「知らん。たぶん、近日中。」
「週末がええなあ。ほんだら、ゆっくり雑炊まで楽しめる。」
「そこいらは抜かりないやろう。金曜ぐらいちゃうか。」
「せいぜい、楽しませてもらおうやないか。おまえの借り賃やねんからな。・・・・雑炊もええな。フグの身が、たくさんあるんやったら、唐揚げとかもしょーか? 」
「任せるわ。春までに、もう一辺くらい、なんか届くと思うで。」
「ということは、一週間か。」
「まあ、そんなとこやろう。肉の上に、さらに、なんか送ってきたら十日やな。」
 俺の出張というのは、滅多に無い。俺が、拒否するから本社命令でも動かないからや。それを動かすとなると、そういう小細工をしてくる。まあ、堀内のおっさんからやったら、大したことはない。これに、沢野のおっさんまで絡むと、十日が二週間になったりする。そこまでいったら、途中で帰って来るつもりやけど、そこまではないやろう。
 と、話し合っていたら、翌日、沢野の名義で、すっぽん鍋セットが届いた。こら、あかん、絶対に二週間や、と、俺と俺の亭主は肩を落とした。
作品名:関西夫夫 鉄砲 作家名:篠義