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右左見 中道
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novelistID. 49654
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水棲

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 昨日の夕にタコツボ壕に入ってから、もう丸一日ちかく経っている。この一人用の壕は狭く浅いので、絶えず屈んだような姿勢を強いられ、体の節々が痛む。立ち上がれば飛び交う銃弾に撃ち抜かれるのは明白だから、我慢するしかない。おまけに、昼過ぎからスコールが降り出し、タコツボに水が溜まって首まで浸かってしまった。
 いつになったら、突撃の命令が下るのだろう。突撃するとしたら、夜だろう。まだ日が残っている。今壕から出たら、狙い撃ちにされてしまうだろう。もっと暗くなったら、中隊長が潜んでいるあたりに目を凝らそう。軍刀の煌めきが突撃の合図だ。それで、この水浸しの壕と決別できる。水が冷たくて、辛い。周りを見回すと、数メートル間隔で並んでいるタコツボから、鉄兜の先端が覗いているのがいくつも見える。降りしきるスコールが、鉄兜に当たって、ポコポコと音を立てている。みんな、同じだ。じっと息を潜めている。



 日が暮れた。真っ暗だ。雨は止んでいる。雲は晴れたのだろうか。葉蔭に隠れたタコツボ群には、月明かりも届かない。そして、突撃の気配はない。タコツボに溜まった水が、今や自分の身体の延長のように感じる。冷たさも全く感じない。水が温まったのか、自分の体温が下がったのか、判別しない。暗闇に囲まれて何も見えず、水と身体の境目すら曖昧になった。自分の輪郭が無くなって、闇に同化してしまったようだ。それが、私には妙に安らいで感じられた。ずっとこうしていてもいいような気すらしてきた。ねっとりした静寂の中で、意識だけが闇の中を漂っている。
 しかし、私の完璧な暗闇は、軍刀が月明かりを反射する煌めきで突如破られる。ざぶりとタコツボから出、空気に触れると、徐々に私の輪郭が戻ってきた。軍衣の裾から、さっきまで私の一部であった水がじゃぶじゃぶと流れ出る。軍靴の中が、ずぐずぐといっている。私たちは、じゃぶじゃぶ、ずぐずぐ、曖昧なからだで突撃した。
作品名:水棲 作家名:右左見 中道