ぼくんち
ひっこししてきて一週間。ふしぎなことが続いてる。
新しい家はとってもふべんな山の中の一けん家。田んぼだらけの景色にはにあわない洋館だ。真っ白なかべに赤い屋根、だんろもあってえんとつがついてて、まるで童話に出てきそう。
広いリビングにしゃれたキッチンは、ママがいたらすごく喜ぶだろうな……。あ、ぼくのママはね、ぼくがようちえんの時に天国に行っちゃった。それからぼくは小説家のパパとふたり暮らし。三年生の今まで、けっこう助け合って生きてきたんだ。
都会のマンションからここにきたのはパパの気まぐれ。ある晩、おっきな流れ星を見て、消えた場所をつきとめたらこの家があったんだって。
「ゆうた。いなかに気に入った家があったからひっこすぞ」
というノリさ。
今は夏休みだからいいけど、新学期からぼくはどうやって学校に通えばいいんだ? いなかのくらしはのんびりしてて楽しくて、友だちもすぐできたけどさ。
そうそう、この家のふしぎなことはひっこして来た日から起きた。ぼくがじっと見ていたら、家がゆれたんだ。まるであいさつしたみたいに。それにかすかに「こんにちは」って聞こえたんだ。
パパは笑って「まさか」っていったけど、ほんとうなんだ。
それからご飯。パパはけっこういそがしいから、おかずはスーパーからできあいのものを買ってくる。ひどいときはコンビニの弁当だ。
なのに、ここに来た日からハンバーグもスパゲッティも手作りなんだ。野菜も食べなきゃなんて言って、にっころがしもサラダも作る。パパは生活が変わったから、なんでもやる気になったなんていってるけどうそっぽい。あいかわらずトイレのスリッパはそろえないし、ぬいだ服は床にほうりっぱなしなんだもん。
ところが、ぬぎすてた服がいつのまにか洗たくかごにはいってるし、新しく着る服はちゃんとまくらもとに置いてあるんだ。
四角い床をまるくはいいてたそうじもかんぺきだし、ときどき洗ざいを入れわすれて洗っちゃう洗たくも、いいにおいでふわふわにしあがるようになった。
前よりもかいてきだからもんくはないけど、この家には何かひみつがあるにちがいない。
そしてパパは明らかにそれを知っているにちがいない。
「ゆうた。悪いけど、パパは明日東京に行かなくちゃならないんだ。一ばん泊まりになるけど、るすばんたのむよ」
ぼくは内心「やった!」と思った。だって、この家のひみつをさぐることができるんだもん。
昼間は家をすみからすみまでさぐってみたけど、あやしいところがみつからなくてあきたから、夕方までゲームをやった。
さすがに夜一人はさびしい。テレビをつけたらりんじニュースで、だつごくしたごうとうはんが山の中ににげたって。アナウンサーがききおぼえのある地名をいった。
「たいへんだ。このへんじゃないか」
ぼくは急いで戸じまりをたしかめた。窓もドアも全部しっかりカギはかかっている。
真夜中にごとごと音がした。階段のおどり場までいってそうっと下を見ると、リビングに人かげが!
うわ、ごうとうだ!
ぼくはふるえながらも二階の窓からにげ出そうとした。ところが、
どた! 窓わくに足をかけそびれて、床に落っこちた。
「だれかいるのか」
ドスのきいた声がして、足音がらんぼうに階段を上ってきた。ばんじきゅうすだ! と、その時。
「ゆうたになにするの!」
かん高い声がしたかと思うと、そうじ機やモップがとんできて男におそいかかった。キッチンからはすりこぎやお玉がとびだして、男をぽかぽかなぐりつけている。男は頭をかえてにげまわった。
「ひゃー、いててて」
それから電気スタンドがとんできて、電気コードで男をぐるぐる巻きにしちゃったんだ。
びっくりしたけど、とにかくおまわりさんを呼ばなくちゃ。と思ったら、そうさく中のパトカーがきたので、ぼくは外に飛び出した。
「お化けだ。この家はおばけやしきだあ」
男はおまわりさんに連れて行かれるときもさわいでいた。
パトカーを見送って家の中に入ると、中はすっかり片づいている。
「ねえ、あなたはだれ?」
ぼくは家に呼びかけてみた。だって、さっきの声がなつかしかったから。
「……ママよ」
「ママ! ほんとに?」
「ええ、ママは星になったけど、ゆうたにあいたくて、毎晩流れ星に願いごとをしていたの。そしたら、この間大きな流れ星がママにぶつかってきたの。その星に乗ってここにおちてきたのよ」
「じゃあ、それをパパが見たの?」
「ええ、パパもママだってすぐわかってくれたわ。」
流れ星になって落ちてきたママはこの家のたましいになった。今までのふしぎなことはみんなママがやってくれたんだ。
ぼくはうれしくてママにだきついた。といっても大きすぎるから床にはらばいになったんだけど。
ぼくんちは、ママのあったかい胸の中。