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弾丸と地蔵

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道端の地蔵菩薩の前に、弾丸が一つ、カランと転がってきました。
すると弾丸が地蔵に問いかけました。
「自分に、意味はあるのか」

「意味とは? つまりあなたが弾丸としてどういう意味があるのか、という事ですね」
「そうだ。他の弾丸にはない疑問を抱いてしまった。他の者は疑問がないのか沈黙し、言葉すら持たずに、出番を待っている。
だが、それでいいのか?
ただ一度きり何もわからない向こうへ突撃する。はたして、いいのだろうか?
それもやれるのは何者かの体に刺さり、その場をひねりつつ貫通する。
でなければ、ただ破壊するだけだ。良いとは思えない。
この体はまた弾丸以外の別な所でも使える様になっているはずだ。何かを助けることさえできる。
しかし今、弾丸でしかない。
この疑問、何か、何か意味があったんじゃないのか?」
「あったのでしょう。でも、もうありません」
地蔵はそう答えました。

地蔵は続けます。
「あなたは弾丸となってしまいました。銃器に入り、傷つけるために発射されることしかできないのです。
しかも、拾われなかったら、たださびて朽ちるだけです。
仏道にかなう事は何もできないのです。
しかし、拾われれば暴力は振るえるわけですからそれによって何かは守れるかもしれません。
それを祈りなさい。私も祈ります」
「仏道、そう仏道だ」
弾丸の言葉です。
「こんな身でありながら発心したんだ。発心してしまったんだ。
好みは暴力を犯す事になる。でもそれをしたくないんだ。
発心してしまったからには、何か、何か意味があるはずだ」
「失礼ながら、私には意味がないように思うのです」

地蔵はなおも言います。
「仏道にかなうことはできないのですから。何より、あなたは一人では何もできないでしょう。
私の前に来られて言葉を交わす。これだけでも奇跡と言えます。
あなたは十分な仏性がおありです。それを発揮する心もお持ちです。
しかし、仏道には遠いのです。
一人では一切の事ができず、他の者の意志でしか行為できないのでは」
「それでは、何の、何の意味があると言うんだ!
ただ、苦しむだけか………!」
「ですから、意味がないのです」
一呼吸置き、地蔵は続けます。
「ですが、意味がないままに肯定されるのです。
諸仏は肯定されます。慈悲ゆえに。
意味はなくて良い。仏性さえあれば。それがこの世界のやさしさなのではないでしょうか」

「苦しみは、ある」
弾丸が、絞り出すように言葉を出します。
「私が共に苦しみます。あなたのように仏性を発揮できない者と。
何もできず亡くなっていく者と。四苦八苦の激流に翻弄される者と。
全ての物者と」
それが、地蔵の使命だと言いました。

革手袋に包まれた手が、弾丸を拾い上げました。
疲れた、汚れた手でした。
 弾丸は、弾丸の望まない方向へ飛んでいき、願わない事をする事になるでしょう。
地蔵は、見つめつつ、苦しみました
作品名:弾丸と地蔵 作家名:羽田恭