そ つ ぎょ
チャイムの音、こくばんのチョーク、いつの間にか小さくなった机、
黄ばんでしまった体操服、ぼろぼろの上靴、なくなったボタン。
いつのまにか、
ぼくらは、世界を狭めていた。
「卒業、」
「おめでとう」
「ありがとう」
裾が破れてしまった学生服を着ることは、もうないだろう。
お気に入りの場所だった、前から5列目、後ろから2列目の窓側。
運動場が見えるこの場所で、いつも見ていた君の後頭部。
(今日も、元気だ)
寒いなあ、とため息をついて、伸ばしたセーター
伸びきってしまったそれは、きっと、明日からは仕舞われるだろう。
(実感とか、)
(ない、し…)
ここから巣立つ、今。
ぼくらはどこへ向かうんだ
たくさんの思い出を、この教室に、この校舎に、こころの中に。
しまっておくような、
そして
忘れていくような
ポケットの中のものを握りしめた。
卒業式に握りしめていたカイロは、
熱くて、
ぼくの手を、こんがりと温めるんだ。
ぼくは、大人になんて、なれるのだろうか。