正義の味方
そいつらは、ある日突然やってきた。
空から降ってきた侵略者たちは、地球に降り立つや否や、無残に人を殺し、無闇に森を焼いた。
その光景はまるで安っぽいSF映画のようで、現実感というものが欠如していた。人々は銀幕を観るような感覚で、自分たちの住む星が蹂躙されていくのを、ただただ息を潜めて眺めているしかなかった。
これが映画であれば、例えそれがお金を払う価値のないものであったとしても、映画であってくれたならば、人類には大逆転のシナリオが用意されているのであろうが、そんな希望を抱く余地すらない程に、戦力差は圧倒的であった。
人類の抵抗力である各国のあらゆる軍隊は、その武力を発揮する暇すら与えられずに例外なく壊滅した。発揮していたとて、あれには到底敵わないだろう。
そうして世界の誰もが悲嘆に暮れていた時、真っ赤に染まった空から、今度は一閃の光が突き刺さるように落ちてきた。
その光は地上数十メートルの所でびたと止まり、そこから無数の光線に分裂し、拡散した。線香花火のごとく音もなく炸裂したその光線は、その一本一本が、前にやってきた侵略者を貫く奇跡の光線であった。
人々は歓喜し、その奇跡の光線が集まって形を成した人型のヒーローを、破れんばかりの喝采とともに迎えた。
「ありがとう!あなたは我々にとって、まさに正義の味方です!」
人々は何とかこの感謝の気持ちを伝えたいと、身振り手振りでヒーローを取り囲む。
「やあ、すみません。私も方々で忙しくて、到着が少し遅れてしまいました。」
驚いたことに、その光のヒーローは流暢に答えたのである。重ねて驚かされたのは、そこにいたあらゆる国籍の、それぞれが別々の母国語を持つ人々が同時にその言葉を理解できたことであった。人々は言葉を失うほどに驚いたが、それも束の間、その驚きは会話ができるということへの喜びに変わっていった。
嬉し泣きをしながら、一人の青年が言う。
「あいつらが来た時には、本当にどうなることかと思いましたよ!」
「彼らも、自分たちの星ではおとなしかったんですけどね、それとは別の、自由にできる惑星を求めるあまり、少し乱暴になってしまったようです。」
ヒーローの手を握りながら、一人のおばあさんが話す。
「あなたが来てくれなかったら、今頃この地球はどうなっていたことやら。」
「あれだけの面積の森林を焼き払うのはやりすぎでしたね。私たちは基本的に傍観の立場を取っているのですが、今回はさすがに見逃せなかった。」
国の長を務めていた男性が駆けつけて、ぐっと握手をしながら感謝する。
「是非とも国を挙げて、いや、全世界を挙げて、あなたの功績を称えたい!今から私と一緒に来ていただけますね?」
「いえ、それはできませんよ。」
ヒーローが答えると同時に、男性の首は宙を舞った。
「次は、あなたたちの番ですからね。」
そうして一瞬のうちに殲滅を開始したヒーローは、人類最後の一人にこう問われた。
「どうして・・・・こんな、ひどいことを・・・・・。正義の・・・味方だと・・思ったのに・・・。」
「ええ、私は確かに正義の味方なのですが、それは、あなた方人類の味方という意味ではありませんから。」
ヒーローがそう言い終えるのが後か先か、人類は、静かにその歴史に幕を降ろした。