覇王伝__蒼剣の舞い1
拓海はこの時、初めて気づくのである。清雅と、父・狼靖の間に横たわる溝を。
「まぁまぁ、そんなに怖い顔しなくても。セイ…じゃなくて清雅」
「焔、聞いての通りだ。本職復帰はない。とっとと南領へ帰れ」
「ちょっと、白虎からも何とか云ってよぉ」
「甘やかすな。余計つけあがる」
「ひど…」
いつもなら、清雅と焔の舌戦が始まるのだが、嫌な緊張感は解かれることはなかった。
四獣聖は四人で協力して、その力を発揮する。
七年前、一旦は剣を封印し玄武から引退した狼靖。何故彼は、玄武を退いたのか。
拓海は、知っていたようで本当は父の事を知らなかった事に気づいた。
「理解りました。吾は既に引退した身。次の玄武の座、お決めください」
「ちょっと父上まで…」
「そうはいくか。あんたの腹ん中、理解らないと思うか?何年の付き合いだと思ってる。俺に何でもかんでも押しつけやがって、あんたは黒狼をその手で倒す気だろう。そうはさせねぇ。あんたには、玄武でいてもらうぜ、狼靖」
そのまなざしは信頼でも、身内に対する情でもなく、怖いほどの憎しみ。
その裏に、ある悲劇が横たわっていた事を拓海はこの後、知る事になるのである。
作品名:覇王伝__蒼剣の舞い1 作家名:斑鳩青藍