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覇王伝__蒼剣の舞い1

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 「___陛下、蒼王(そうおう)陛下」
 蒼天下、一人の男が大樹の上に向かって叫んでいる。
 銀髪に、白皙の美青年だ。
 「そこにいらっしゃるんでしょう。皆様、お待ちです」
 「白虎、お前に任せる」
 「冗談じゃありません。吾(わたし)に陛下の代役が務まるわけないでしょう。いい加減、観念したら如何です?」
 「何を観念しろと云うんだ?」
 「王として、政務に励む」
 「無理だな。柄じゃねぇ」
 樹の上の男は、枝での上で長身を伸ばし桃を囓った。
 蒼国(そうこく)は、東にある四国の中でも小国である。
 その国主・蒼王は、この年二十五歳。七年前までは、賊相手に剣を振るっていた自由戦士だったが、突然蒼国の王に担がれた。理由は二つ、彼が前覇王の四番目の子供であった事。もう一つは___。
 「蒼剣が貴方を認めたんですよ、陛下」
 「白虎、その陛下はよせ。俺は蒼王になんざなりたくてなったんじゃねぇぞ。あのくそ親父、俺に王になれと云っておきながらとっとと引退しやがった」
 「もしかして、玄武どのの事ですか?」
 王と呼ばれるには、口の悪い男は漸く樹から降りてきた。
 腰まで伸ばし放題の髪に、日に焼けた肌、長身だが引き締まった体躯。名を清雅(せいが)という。
 「そもそも、玄武があの剣を持ってきたんだ」
 背まで流れる癖のある髪を乱暴に掻き上げ、蒼王は苛立ちを露わにした。
 「玄武どのは、覇王陛下の側近中の側近でしたから」
 「だったら、黒抄(こくしょう)に持っていけばよかったろうが。黒狼(こくろう)が大喜びするのは間違いなしだぜ」
 「陛下…、兄君ですよ」
 「その兄君さまが、誰の命を狙ってる」
 「蒼剣を渡しても、諦めていたたけないでしょうね…」
 「益々腹が立ってきた」
 蒼王は、その苛立ちを持て余しながら城に戻った。
 着替えをと云う周囲を制し、自由戦士そのままの姿で現れた若き王に、もはや驚く者はいない。
 蒼剣が選びし王___蒼国・王城に集う者たちは文句なしにこの風変わりな王に膝をついた。
 七年前、前覇王が手にしていた蒼剣が、未だ蒼龍(そうりゅう)の清雅(せいが)と呼ばれていた彼の前で蒼く反応した時から。
 これが、彼の異母兄である北の黒抄国主・黒狼のプライドを傷つけるに至った。