ミーシャの冒険 1
北の森には魔族が棲む、と言われている。
昼間でも暗い、誰も枝打ちに入って行こうともしない森の道は、風雨に晒されて荒廃したうえに草が覆いかぶさり、もう途中から消えてしまっていると思われていた。
「それで」
ミーシャは、教会に集まった村民を見渡して
「マリア祭から1週間過ぎたのに、誰の家からも、誰の果樹園からも、誰の船小屋からも、アルビーナが見つからないというのは、どういう事なのでしょうか」
「隣村でも、誰も見ていないそうだ」
乾物商人のヤコフが困ったという顔で
「それどころか、あちこちでここ1年、同じように少女が消えてしまっているらしい」
「少女が?」
「初めは海や川に落ちたんではないかって捜索したりしていたようだが、どうにも見つからなくてな。何故か決まってその前後に北の森の方で煙を見たとか足跡が森に向かってついていたとかいう話が出て、どうもこれは関係あるんじゃないかと俺は踏んでいるんだが」
「ふむ」
神父が閉じていた目を開き
「魔族に連れ去られた可能性もある」
「そうでしょう神父さん。俺も前々から、あの薄気味悪い森は気に入らないんだ」
ヤコフは勝ち誇ったように
「さっさと森を焼き払って魔族など退治してしまいましょうよ、神父さん」
「まあ待て」
神父は飽くまで冷静な物言いで
「神の力を振るうには確証がなければならぬ」
「確証なんて、奴らが魔族だってだけで十分じゃないですか」
「魔族だからと言って無闇に滅ぼして良いという理由にはならぬ。それほど言うならヤコフ、そなたが確証をつかみに行くか?」
「め、滅相もない・・・」
ミーシャはこのやり取りに、何か微妙な違和感を感じた。
「あ、あの」
皆の視線が集中する。
「私が行きましょう」
ミーシャは自分でも、これはもう単なるノリでしかないなと自覚している。
「お前のような弱っちい若者がか?」
パン屋の親方が嘲りの声をあげる。まあ、当然の事だろう。
「戦闘が目的でないのなら、弱っちくても問題ないでしょう。それに、私なら貴方が3日かかる山道を2日で進む事が出来ます。1人で背負える食料は1週間分がやっとなのですから、貴方より私の方が広く見てくることができますよ」
まあ、よくすらすら口に出てくるものだ。
「ミーシャが言うとおり」
フィオナが立ち上がり
「森の向こうがどうなっていて、食料や水があるかどうかすらわからないのだから、速くて慎重な人を選ぶべきだわ」
賛同の声が上がった。
神父は頷いて、ミーシャに教会の名のもとに、北の森の魔族の探索を命じた。