休日
扉を開けると、キミが立っていた。いつも通りの笑顔は、ボクを安心させた。
「どうぞ」
「お、おはようございます。昨夜は預かって戴いてありがと…とっとっと…」
キミは、もうボクの腕の中に収まってしまっていた。お陽さまの香りを髪につけた可憐なひまわりの花のようなキミを抱きしめた。玄関の扉が、バタンと閉まった。ボクは、柔らかな花弁のような唇に触れていた。(ちょっと落ち着け! まあいいじゃないか…)
離れてキミを見れば、頬を染め、ずいぶん照れた顔つきで一生懸命言葉を探しているようだ。やっとその言葉が見つかったのかな。
「お腹空いてるの? 空いてても食べちゃ駄目……だにゃん」
尻すぼみのキミの『にゃん』は、ますますボクのツボにはまっていくが、意地悪ばかりも可哀想だね。
「今日は、お休みなの?」
「ああ、今のところ連絡ははいっていないから休みにしてみたんだけど、何処か行く?」
キミは、何処かに電話をかけるというので、ボクは、キミを玄関に残し、リビングで待つことにした。
キミは 小声で話している。聞き耳を立てるわけではないが、誰と何を話しているかはわからない。キミの「はい。はい」と歯切れの良い返事が時々聞こえてくる。何だか素直なキミの返事に 本当のキミを見つけた気がする。ボクは、ますます好きになっていく。
「はぁい」
先ほどまでの返事より ずっと間延びした声が聞こえた。
電話が終わったらしく、キミがリビングに入って来た。俯き加減な様子に ボクは無理強いしてはいけないなとやや諦めた。
ボクは、キミが何か言い出す前に、キミの淡い桃色の皮のベルトにスクエアの文字盤の腕時計を差し出し、あのことを聞いてみた。
「可愛い腕時計だね。気付かなくてごめん」
「可愛い? 似合う? お祝いで貰ってからずっとつけたことなくて。初めてつけたから外して忘れちゃった」
ボクは、キミの手首にはめてあげた。(いつもなんて言わなくて良かった)
「にゃんとまあ!」
え、どうした? ボクは、キミの顔を伺うが、キミの口元が言葉を拒むように小刻みに震えた(ように見えた。ありゃありゃなんだ?)
「あのね。くふふ、もう夕方だにゃぁ。お出かけできないよん」
手を差し出すキミの腕時計は、文字盤が逆さまだ。
ボクは、「よく気付いたね」と誤魔化したものの、慌ててはめ直した。
「さて、お出かけ…ってできるのかな」
微笑んだキミの瞳にボクはひまわりが映っているように見えた。
「約束した 背丈より大きなひまわり畑に行ってみようか」