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漢字一文字の旅  第三巻

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四の一  【紫】



【紫】、上部は人が並ぶ様であり、要はちぐはぐ。
そして青と赤がちぐはぐに混じりあって、糸となったのが【紫】だとか。

古代日本では「むらさき」という草の根から取った染料で【紫】に染めた。
万葉集一番人気の額田王の歌
── 茜草指 武良前野逝 標野行 野守者不見哉 君之袖布流 ──
この「武良前」(むらさき)だ。

一方古代ローマでは、アッキガイ科の巻貝の分泌物・プルプラで作られた染料で【紫】に染めた。
いわゆる貝紫(かいむらさき)、英語ではロイヤルパープルと呼ばれている。
まさに王家の【紫】であり、王家に生まれたことを……「 born in the purple 」という。
この貝紫、年数を重ねるほどその【紫】はさらに映えてくると言われている。まさに吉兆だ。

そんなこともあり、アレキサンダー大王はこの貝紫を自分だけの色だと決めた。またシーザーはこの貝紫のマントを纏い、クレオパトラは艦船の旗を貝紫色にした。

だが染色方法はフェニキア国の秘伝であり、ローマ人は決して作れなかった。その後、染色技法は途絶えてしまい、新たな貝紫の布や織物は長年製作されることはなかった。
それを再現させたのが宮崎県の綾の手紬染織工房だ。
なんと藍染の原理と同様の方式で発色させたのだ。

こうなれば、貝紫色、やっぱり手にしたくなる。
調べてみればネット販売されている。
王家の【紫】を庶民が纏える、世の中も変わったものだ。

とにかく【紫】、「 born in the purple 」、王家生まれが味わえる漢字なのだ。