ミーシャの冒険 序
ミーシャは家から飛び出した。
海岸に下りる階段の両側の塀は初夏の陽に白く輝き、赤や黄色の原色の花が海風に揺れていたが、今日はミーシャの足を引き留めることは出来なかった。
マリア様が来る!
年に一度、初夏のマリア祭の日に村々を回る御輿のマリア像
ミーシャの住む村は渚沿いの径をまっすぐ通過してしまうため、山側の住人は祭りの開始を知らせる教会の鐘の音と同時に、海に向かって掛け出しているのだ。
海へと下りる階段には右から左から、1人2人と増え、駆け下りていたはずがいつのまにか皆ゆっくりと歩くようになっていた。
「ミーシャ、今年は良かったねぇ」
青や黄色の髪飾りを目一杯豊かな赤毛にぶら下げたフィオナがすぐ後ろから声を掛けてきた。
「うん、去年は熱出して寝てたし」
「きっと今年はマリア様のご加護があるよ」
フィオナはミーシャを追い越すと、ひょいとパーシモン色のスカートの裾をつまんで見せた。
「そういえばフィオナ、アルビーナは?」
アルビーナというのはいつもフィオナにくっついて遊んでいる12歳の女の子だ。
「見てないよ。もう教会の前に行ってるんじゃないかなぁ?」
海辺の教会の壁は白亜に光り、ブラスバンドにアコーディオンをプラスした独特の演奏が先導するマリア像を待って多くの村民が詰めかけている。
「アルビーナ? アルビーナ知らない?」
フィオナは周囲を探しまわっている。
「いや、見てないよ。まだ家じゃないのかねぇ」
小さな村だけに、お互いの顔は知っているので、先に来た人達が見ていないのならば本当にまだ来ていないのだろう。