身近な君への酷薄
冬の寒い部屋の中でひとり、ズキズキと痛む頭がたまらなくなって、床に身体を投げだしたの。
カーペットの電源を入れて、薄暗い部屋の天井を見てみると、ほのかに月の光が全体を包み込んでくれたわ。
まるで、あなたに抱きしめられた時のような心地がしたの。芯まで冷たくて、柔らかくて、カラッポに感じるのよ。
優しくされても、抱きしめられても、あなたの心は何処か別の方向を向いてしまっていると、わかっていたの。
私はそれがイヤではなくて、むしろ心地よかったから、あなたを選んだの。
あなたは私が何でもないような顔をしていると嘘ばかりついた。私の事をバカだと思って軽蔑していた。
ねえ、こんな日が来るとは思いもよらなかったけれど。この部屋にはまだ、あなたの気配すら感じるの。
まだ其処にあなたがいて、また始めから真っさらにやり直せるんじゃないかって、期待してしまうの。きっと同じ道を辿る予感がするけれど。
それでも、わたし、いつかきっと。家畜に名前がないように、あなたの名前すら忘れて、存在自体を消してしまうわ。
子供の頃、お父さんやお母さんがいなくなったらって……号泣しながら目が覚めることってあったでしょ? それと同じ。実際はそういうことが起きたって、いつかはネタにしてしまうでしょう。
だから私、この狭い空間の中でめいっぱい翼を広げて、鈍い音をたて、飛び立つことにするわ。
あなたがもう一度やさしい言葉を囁いてくれたとしても、今度は丸めてゴミ箱に捨ててしまうわ。あなたが私のようになってしまっても、涼しい顔で存在自体を消してしまう。
いつの間にか、雲が私から月を奪ってしまった。もうまぶたの裏にうつる光を空想することでしか、灯りを手に入れる術もないの。
ねぇ、それ以外のやり方で。どうすればこの部屋から出ていけるのかしら。