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レジを打ち

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うつぶせの状態で正午に目覚めた。ロフトベッドから壁掛け時計を見つけると、六時間か、と思い目をつむった。授業が始まるのはあと十五分。服を着替える時間を考えても大学までは十分以上かかるからやはり間に合わないなと思い直してため息をつく。そうだ、後五分起きられたら目覚めよう。はだけた布団をかぶり直し、仰向けになって天井を見つめた。気が付けば目を閉じていた。
 壁掛け時計を見ると一時半を指していた。四限も間に合わないか。そう思って一息ついた。今度こそ五分間起きられたら大学に行こう。そう思いながら天井を見つめた。
 五分経った頃に起き上がり、きしむロフトベッドを降りて座椅子に横たわる。今から着替えても間に合わないし、良く考えると予習もしていない。行く気が出ない。いずれにせよまだ二週目で、別に今日休んだって良いだろう。座椅子に丸くなりながら、大学に行かないことにした。ついでに五限も休んでしまおう、そうすれば今日は休日だ。
 そうだ、バイトにも電話して休みを入れてもらおう。流石に仮病を使うまでもないだろうが、今日は人員も多そうだし休めるだろう。そう思って電話をかけてみたが、都合のいいことを言うなと言われてしまった。そうか、私は今日休めないのか。ケータイをぱかっと閉めて、座椅子に座りなおした。パソコンの電源を入れて、冷凍庫からうどんを取り出し温めた。
 うどんができるまで部屋の窓を開けて、タバコに火をつける。部屋がまたタバコ臭くなるな、そう思いながら風に揺らされる洗濯物を見ていた。一度洗濯したワイシャツにはやはり取れない染みが残っていて、どうせ捨てるのだけれどなんとなくもったいなくて外にかけっぱなしであった。タバコの火を染みに重ねて、付いたばかりの血を思い出してみた。今では茶色いそれは、付いたときには赤かったのだ。不思議なものである。
煙を吹いたのと同時に強風が部屋に入り込み、シャツを巻き上げながら部屋に煙をまき散らした。副流煙が不意に入って咳き込んでいると、チンとうどんが出来上がる音がした。
 灰皿にタバコを刺し、座椅子に座り直した。パソコンにログインしてうどんを啜る。まとめサイトや某つぶやきサイトを見てから、映画を見た。映画を見ているうちに五限が始まっていたが、少し気にかけながらも映画を見続けた。どうでもいい内容だったが、エンタメチックで面白かった。邦画も悪くないな、とちょっと思いながら、終わるころにはバイトへ行く準備をした。
 ワイシャツを着て、ズボンを履いて、そう言えばクールビズが終わったんだなと思いながら先輩に貰ったネクタイを締めた。西ドイツ製の不思議な柄のネクタイだった。なんだかんだで気に入っている。そろそろ夜が寒くなってきたので薄いカーディガンのようなスーツを着て家を出る。自分でもカーディンガンのようなスーツに違和感を持っているが着易いしそんなに気にしないことにしていた。
 時刻が四時三十分過ぎてるのを確認して、ご飯は食べられないなあと思った。いつもなら牛丼を食べてバイトに行っていたが映画を見たせいでぎりぎりになってしまった。どうせ四時間働いたらご飯は食べられるから、それまで待とうと腹をくくった。
 バイト先へ到着すると、準備を入れても少し余る程度の時間があった。牛丼食べても良かったなあと思いながら裏口から入ろうとすると社員の一人がタバコを喫んでいた。おはようございますと挨拶をすると向こうも返して、タバコをバケツに放り込んだ。吸い殻は赤い軌跡を残しながら宙を舞い、バケツに落ちてじゅっと消えた。社員はそれを見届けることなく中へと入っていった。せっかく暇だし、自分も一服しようと思って胸ポケットからタバコを取り出した。
 空が綺麗だなあ、とふと思ったが、これは何も思うことが無い結果出てきた戯言なんだろうと自分で感心した。実際、空は曇っている。少し喫んでいると、後輩の女の子がおはようございますと挨拶して中へ入っていった。いつもワイシャツに制服のエプロンを着ているのしか見たことが無かったが、私服は割と可愛いんだなと初めて思った。だからどうしたということでも無かったが、少し新鮮な感覚だった。タバコの火を彼女の後姿に重ねて追いかけてみたが、きっと赤は似合わない女の子だろうな、そう思った。
 エプロンを着てレジへ出て、いらっしゃいませと過ぎ去る人に声を掛けながらレジへ入る。先に入っていたおばさんは、今日は早いねえと嬉しそうに鍵を渡した。早く帰れるということがそれほど嬉しいのだろうか、どうせタイムカードは定時にならないと通せないだろうに。そんな考えを裏腹に営業用のスマイルと声を準備してレジを通し始めた。
 ひたすら四時間レジを通した。二時間経つ頃にはいつも夕日でレジ前が赤く染まるのだが、今日はやはり曇っているから薄暗いだけだった。
作品名:レジを打ち 作家名:木戸明