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でんでろ3
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口は幸いのもと〈第2話 嘘つき〉

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嘘つきゆーたは無口な男。

 自分の言ったことが、必ず嘘になるとしたら、自然と無口になっていくというものではないだろうか?
 ゆーたも、また、言った言葉が現実となる”言霊”の力の持ち主だが、ちょっと変わっている。

 言った言葉の逆が現実となってしまうのだ。

 ゆーたの幼馴染みのゆーこが小学生のころ言った。
「明日の遠足、晴れるかなぁ?」
「大丈夫。晴れるさ」
土砂降りだった。

 例を挙げればきりがない。
 ゆーたの予想。
 ゆーたのアドバイス。
どれも、言った通りになった試しがない。
ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・?・ゆ・ー・た・様・の・言・わ・な・い・通・り
なんて、からかわれるようになって、「嘘つき」が、彼の呼び名になった。

 それだけ続けば、さすがに、ゆーたも、幼馴染みのゆーこも、親しい友人たちも、彼の超常的な力を認めざるを得なかった。
 そして、彼の能力にはオマケが付いていた。

 わざとついた嘘では、言霊が発動しないのである。

 例えば、遠足の前日、
「明日は、土砂降り」
と言えば、晴れるのか? というと、晴れない。若干の救いは、何も言わなかったのと同じになることくらいだろうか?
 何かを2つから1つ選択する場合では、逆を選ぶという作戦を取れば、百発百中で当たるのではないか? という期待もされたが、何をどうあがいても、当たらなかった。


 ゆーこが、私立中学を受験する前日、不意に、ゆーたのところにやって来た。
「私、どうしても、自信が持てない」
ゆーたは「大丈夫、絶対受かるよ」と言いかけて、すんでのところで、思いとどまった。
(危ない、危ない。そんなこと言ったら、ゆーこは落ちてしまうところだった。)
しかし? と、さらに、思い悩む。
(「お前は、落ちる」とは言えないし、そもそも、嘘だから、言っても意味ないし……)
「大丈夫。自信ない受験生ばかりだよ」
翌日、受験会場近くを震源とした大きな地震があり、動揺したゆーこは大丈夫ではなかった。
ゆーこは、ゆーたと同じ公立中学に通うことになった。


 そんなゆーこが、急に原因不明の体調不良を訴え、大病院で精密検査を受けたのが春のこと。
 まさか、余命半年の宣告を受けようと、だれが予測しただろう?
 そのまま始まった入院生活。衰えて行く身体。増えていく薬。複雑化する治療。
 告知せず、気取られぬように、と気を付けてはきたが、分かってしまっていたと思う。

 いよいよ最期の時を迎えようとしているのか? というとき、ゆーたが、病室の前で祈るようにしてベンチに座っていると、ドアが引かれて、ゆーこのお父さんが出てきて言った。
「ゆーこが、君に会いたがっている」
 ゆーこは、見る影もなくやせ細り、肌は土気色をしていたが、ゆーたの顔を見ると、確かに笑った。

 ゆーたは、最近、真剣に考えていることがあった。

 嘘とは、想いの乗っていない言葉なのではないか?
 強い想いを乗せた嘘なら、逆のことが現実となるのではないか?

 しかし、さらに、こうも考えるようになった。

 あまりにも強い想いの乗った言葉は、逆でなくて、そのまま叶ってしまうかも知れない。

 だから、ゆーこに、
「お前は、死ぬ」
と、言うかどうか、迷っていた。それは、強い願望がこもっているから、届くかもしれない。でも、強すぎるかも知れない。

そのとき、ゆーこが、苦しい息の下から、ゆーたに話しかけてきた。
「ゆ、た。変な、能力、与えられた、って、神、様、恨ん、じゃ、だめだ、よ」
ゆーたは、ゆーこの手を握り、口元に耳を寄せた。
「お前、こんな時に、何、言って?」
「何、だって、使い、よう、なん、だか、ら」

(神、……、使いよう、神、……)
ゆーたは、自分の下唇を噛みしめた。自分の中から何かを絞り出すように。そして、突如、意を決して立ち上がって言った。
「ゆーこは、3年後、死んでいない」
ゆーこの家族が目をむく中、ゆーたは続けた。
「この文には、二重の意味がある。1つめ、『ゆーこは、3年後死んでは、いない』。すなわち、生きている。これを否定するならば、ゆーこは、3年後、死んでいる」
ゆーたは、カッと目を見開き、天を仰いだ。
「しかーしっ、もう1つの意味は、『ゆーこは、3年後には、すでに死んでしまっていて、居ない』という意味になる。これの否定は、もちろん、ゆーこは、3年後、生きていて、居る、ということだ!」
ゆーたは、右手を高々と上げ、人差し指で真っ直ぐ天を指す。
「神よーっ! この矛盾するダブルミーニング、同時に否定できるものなら否定してみろーっ!」

 一時の静寂、そして、……。

 ゆーこの脈拍を伝える電子音のリズムが、明らかに変わりだす。医師や看護師が慌ただしく動き出す。ゆーこの顔に赤みが差してきた。

 奇跡は起きた……のか?

「何だったのかしらね」
すっかり元気になったゆーこが言う。
「『保留』ってことじゃないかな?」
「何で3年後なの?」
「俺の能力では、それが限界だと思ったんだ。たぶん。本能的に」
「じゃあ、3年後にまたやるの?」
「それまでに、神様が答えを出してないことを祈ろう」
「私は、恋敵が現れないことを祈るわ」
「……そんなの、現れっこないじゃないか」

 どうやら忘れているようだね。彼が言ったことの逆が現実になるということを。