ダイス
この圧倒的な湿度の中では、身体を正常の位置に呈することが億劫である。
線の見えない立方体の中で私はただ途方にくれた。
透明状の液体の中で私はゆらめき動く。
私は人間だ。
くねくねゆらゆらする人間だ。
私の骨はよく曲がる。よく折れる。よくしなる。
不思議なものだ。こんなにも素敵な世界が広がっていることを
私は異常なまでにダイスの中で誇示するのだ。
それならば、それれならばなどと考えない。
と、そこに私は何かの病気なのかドクターが現れ、カルテを書いていく。
私に尋問することもなく、さらさらとペンを走らせすぐに去っていった。
悠然たる気分を味わっていられるのもなぜか頭上にはエサがあるので自らエサを探す必要がないからだ。
ああなんて幸せなんだろう。
浮いてるだけでなんて幸せ。
ダイスの向こうで誰かが話している。
「もう少しで外に出られるぞ、それまでの辛抱だからな」
私はもう出れるのだろうか。
私は出たくない。もし出たとしたらこの恍惚はもう二度と味わえないかもしれない。
私はゆらゆらしていたい。
ただ、ただ、ゆらゆらしていたい。