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黒い海面

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どこまでも深く、何もかも吸い込んでしまいそうなほど黒い海面。
その暗黒の世界で、板きれになんとかしがみつき、私は今にも消え去りそうな命の灯を繋ぎとめていた。
乗っていた船が転覆し海に投げだされてから、既に6時間が経った。
時間ならたくさんある。
どうすればこの状況を打破できるか、生きて帰ったら何をしたいかといったポジティブなことを考えるのはとうに辞めてしまった。
冷たい海に体温だけでなく生きる希望すら奪われてしまったようだ。
荒れ狂う波に揉まれながら、考えるのはこれまでの自分の人生のこと。
様々な後悔が去来しては消えていく。
しかし、もう考えるのも疲れた。
このまま、いっそのこと…
そう思った矢先、急に辺りが明るくなった。
頭の上では騒がしい声がする。
やった!救助隊だ!
嬉しさと安堵により体の力が抜ける。
これで家に帰れるんだ…
もうこんな板きれに掴まってる必要はない…
あれ?
板がない。
どこに行ったんだ?
それに騒がしい声もどんどん遠ざかっている。
違う。
私が海に沈んでいるのだ。
さっき安心した時に板を離してしまったらしい。
やれやれ。
そういえば母親によく言われてたっけ。
「お前はいつも最後のツメが甘い」って。
私が消えゆく意識の中で見た光景は、仕方のないやつだという表情を浮かべた母親の顔だった。

すまん…
母ちゃん…
作品名:黒い海面 作家名:葱奴