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グロウアップ・デイズ

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その4



トラのGPSが示す場所は、研究棟の外れにある今は使われていない部屋だった。ロックを解いて中へ入ると目当ての人影は無かったが、ウサの眼は部屋の奥の棚と棚の間で白布を被って身を縮こまらせているトラの姿を確認出来た。
「隠れても意味無いんだけど」
 近づいて白布の塊に呼びかけると、身じろいだだけで返事は無い。
「捲るぞ」
「あ…っ」
強引に白布をひっぺがすと、ウサは無遠慮にトラの隣に座り込んだ。
「お前、オレの事考えてばっかりで、仕事にならないって?」
「……あぁ」
 耳元に囁くように尋ねると、身を強張らせたトラはこくりと素直に頷いた。が、やはりトラは俯いたままで、こちらを見ようとしない。無視されている訳ではないのだが、どうも距離を感じる。もしかすると、この間無理矢理繋いでした行為を警戒されているのか。だとしら早々に釈明しておかねば。
「あーその、今日は何もしない」
「……本当に?」
 そんなつもりは無いと正直に話すと、おそるおそる見上げてきたトラとようやく目が合った。本当だ、と繰り返し同じ言葉で返すと、ほっとしたようにトラの表情が緩んだ気がした。
「それで、どうして逃げたんだ?」
「わからない。ウサの顔を見たら、急に落ち着かなくなって…」
「へぇ?」
 ウサに対する警戒は解かれたはずなのだが、話すトラは俯いて居心地悪そうに身を竦める。
「おかしいんだ。この間ウサに言われた言葉がループして、仕事中もウサのことをばかり考えてしまう。壊れているわけではないとマスターは言うが、掃除も料理もうまくできなくてマスターとコテツにも迷惑をかけている。もう、どうしたらいいのか…」
自覚が無いと言うのは恐ろしい。深刻な顔で話すトラの言葉に堪えきれず、強引に抱き寄せたトラの肩口にウサは顔を埋める。
「ちゃんと上書きされてるじゃないか」
「……ウサ?」
「それは恋だ、トラ。お前はもう、オレを好きになってるよ」
 そう言った直後、抱きしめていたはずのトラに急に肩を押し返された。
「私は…ウサが好きなのか?」
「あぁ」
 本人に直接聞く事ではないけれど、トラがその事実を自覚してくれたなら、そんなことはこの際どうでもよかった。トラの不安を取り除くように全力で肯定してやると、ウサの肩を掴んでいた力が抜ける。
「……そうか」
そうぽつりとトラが呟いたかと思ったら、電源が落ちたように急に倒れ込んできた。反射的に受け止めて様子を窺うが、本当に電源が切れた訳ではなさそうだった。その証拠に、ウサの背に回ったトラの手が、しがみ付いてきている。その手に応えるように、ウサもトラを抱きしめ直した。
「アンドロイド同士で不毛だと、最初に言ったのはお前だ…」
(そーいえば、そんなことも言ったっけ)
「そんなこと気にしてたのか、バカだな」
廃棄を免れて虎徹の家に連れて来られた頃、存在意義を見いだせずに自棄になっていた時の、くだらない八つ当たりだったのに。
「……」
腕の中で少し不満げにトラが身じろぐ。ウサにとっては「そんなこと」でも、トラにとっては違ったらしい。
しばらくしてもトラは離れずに大人しくしているのをいいことに、額に、瞼に、頬にとキスを落として、唇へと向かいかけた直前、ウサの着信のアラームが鳴ってキスは中断される。相手を確認して、一瞬切ってしまいかけたがしぶしぶ通話機能をオンにした。トラにも聴きとれるよう、回線をオープンにしてホログラムの画面を出したが、何故かトラはもそもそとウサの胸に顔を埋めてしまった。
「なんだよ、マスター」
『その様子だと、うまくいったみたいですね』
「あぁ…」
 見計らった様なタイミングの連絡とバーナビーのにこやかな笑顔に不信感が募って、ウサは用心しながらバーナビーの言葉を待った。
『仲良くなった所で悪いんですけど、僕そろそろ帰るんですが…』
「断る」
『まだ何も言ってないじゃないですか』
 嫌な予感にウサが先制して応えると、バーナビーの呆れたため息が聞こえた。
『トラ、あなたはどうしますか?』
「私…?」
 ウサの胸にぴったりとくっついていたトラが、呼びかけられてようやく顔を上げる。少しためらう素振りを見せてから、トラはウサにしがみ付く力を強めて答えた。
「今日は…ウサの傍にいたい」
『そうですか…わかりました。確認しておきたかっただけです。それじゃ、また明日』
 意外にもあっさりとバーナビーからの電話は切れ、ウサが通話を終了させると胸の辺りが急に重くなる。トラが再び抱きついて来たのだ。
「熱烈なのは嬉しいけど、近すぎて何もできないだろ」
 トラの背に腕を回して顔を見れるように少し身体を離すが、トラは俯いてしまって結局顔が見えない。
「我儘言うなんて、二度目だ…」
「……お前はもっと言ってもいいんじゃないか?」
 主の許可も降りたし、なによりこの真面目で頑固なトラが、一緒にいたいと言ってくれたのだから。
俯いたトラを無理やり上向かせると、今度こそトラの唇にキスをした。
作品名:グロウアップ・デイズ 作家名:くまつぐ