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グロウアップ・デイズ

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その3



バーナビーから、話があるから会いたい、とウサに連絡があったのは今朝の事だ。
トレーニングが終わってからでいい、と付け足されていたのでさほど重要な話ではないのだろうが、メールか電話では出来ないらしい。
 何の用件だろう、と道中のひまつぶしに思考しながら、ウサは指定された研究室に向かった。

「マスター、話って何だ?」
「あぁ、来ましたね」
 研究室に入ると、ウサに気付いて椅子から立ち上がるバーナビーの隣に、トラがいた。先日メンテナンスを終えて虎徹の家に帰ったばかりなのに、またラボにやって来ていたらしい。
「……なんでトラが?」
不具合でもあったのだろうかと視線をやると、あからさまに顔を背けられた。さらには、とバーナビーの背にこそこそ隠れようとさえしている。実際、隠れてないけど。
「あなたを呼び出したのは他でもない、トラとよく話を…って、トラ? どうしたんですか?」 
 バーナビーが首だけ振り返って様子を窺うが、当のトラはさらに身を縮こまらせようとしていた。バーナビーと身長差はあれど体格差はあまり無い為、やはり身を隠すには至らない。
「なにやってんだ…」
 トラのその無駄な努力を見かねてバーナビーから引き離そうと伸ばした手は、触れる前に弾かれてしまう。お互いに驚いた顔を合わせたのは一瞬で、トラは逃げるように部屋から出て行ってしまった。
「……なんで?」
 予想外の反応に対応できずにトラが出て行ったドアが閉まるまで見送ってからさらに数秒後、首を傾げると、それはこっちのセリフです、とバーナビーが盛大なため息をついた。
「あなた、一体トラに何をしたんですか?」
「はぁ? ずっとラボにいたオレがあいつに何か出来るわけ…」
 ないだろう、とウサが言いきる前にバーナビーがばしんと机を叩く音で途切れる。
「ネタは上がってるんですよ!」
バーナビーのそのどこかで見たことがある言動に、ウサは暇な時に流し見していたサブカル動画のテレビドラマがデータベース内でヒットする。確か場面は、個室で犯人が刑事に取り調べを受けているシーンだったはずだ。
つまり今自分は尋問される側になっているのか。何故だかわからないけれど。
「トラのシステムに異常はないのに、通常業務に支障が出てるんです」
怒っているのかバーナビーの声音は低く、気圧されたウサが後退ると、バーナビーが同じ距離を詰めて来た。
「トラが言うには、ウサの事ばかり考えてしまって苦しくて仕事にならない、だそうです。この意味、あなたなら分かるんじゃないですか?」
 とん、と胸元をノックする様に叩かれて、微笑むバーナビーに凄まれる。
「!」
問われて思い至るのは、先日無理矢理身体を繋いで行った実験と言う名の確認だ。
あの日の告白は即行で却下してくれた彼が。基本プログラムに忠実で生真面目な彼が。まるで恋する乙女のようになっているだと?
「トラの居場所、分かるでしょう?」
「…もちろん」
動揺のあまり一拍遅れてサーチモードを展開させたウサはしかし、即座にトラの居場所を特定する。
ひらりと手を振るバーナビーを目の端に見て、ウサは部屋を飛び出した。

作品名:グロウアップ・デイズ 作家名:くまつぐ