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グロウアップ・デイズ

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その2



 遅い夕食は今朝のリクエスト通り、ハンバーグで、見た目は問題なく食べやすい小判型となっていた。今朝はハムエッグを全体的に焦がしていたトラだったが、口にすると店で出されるものとおかしくない味で、傍から不安そうに見つめてくるトラにうまいよ、と正直に話すと表情が少し和らいだ。
 簡易チェックとやらでは異常が無かった訳だし、これまでの変わった味付けは一時的なものだったのだろう、と油断していたらデザートで隙を突かれた。
「こ、これはなんていうか…」
「そ、創作的な豆腐ですね…」
 牛乳プリンという名前で出された物が、甘い豆腐のようななにかだったのだ。スプーンを握りしめてバーナビーと二人で顔を見合わせて困惑していると、察したらしいトラが立ち上がった。
「今すぐ作り直す」
「だ、大丈夫だって! これ、意外とクセになる味だし!」
 虎徹は慌ててトラの腕を掴むと、元の位置に座り直させる。
「だが…!」
「失敗なんて誰にでもあるし、今はちょっと調子悪いだけだって。だから今日は早く休んで、明日もうまいメシ作ってくれよ」
 なおも虎徹の腕から抜け出そうともがくトラに視線を合わせると、トラは俯いてゆるく首を振る。
「…ない」
「ん?」
「私はアンドロイドだ。失敗なんてありえない。プログラムされた事を間違えるはずがない。あるとすれば、それは私が壊れている所為だ。だから、これ以上2人の役に立てないなら……いらなくなったら言ってくれ」
 弱々しいトラの語尾に、虎徹は反射的にトラの身体を抱きしめていた。微かに震えている背を、安心させるように撫でてやる。
 ウサが虎徹を守れないと思いつめていたように、トラも理由の分からない不調で役目が果たせず戸惑っているのか。
 アンドロイドにとって役目を果たせない事は、そんなに大事なことなのかと虎徹は役目とやらを恨めしく思う。虎徹にはアンドロイドの事は専門外で難しい事は分からないが、そんなことでトラを手放すつもりはない。自然、トラを抱く腕に力が籠った。
「……んなこと言うわけないだろ、バカ」
「先ほどのチェックでも異常は無かったですし、トラ、貴方は壊れてなんかいません。暫く症状を経過観察した上で、もう一度ラボで診てみましょう?」
 けれどバーナビーの言葉にも、腕の中のトラはふるふると首を振った。ぐ、と肩を押されて、虎徹はトラの背に回していた腕を解く。
「ではマスター、ラボから戻ってからウサの事ばかりで思考が埋まって、このあたりが苦しいのはどうしてだ? コテツとマスターを優先すべきなのに…それでも私は壊れていないのか?」
 ぎゅ、とトラが胸のあたりを抑えて見せた。淡々とした口調とは裏腹に、俯き加減で苦しそうに目を細めるトラの様子はまるで。
「な、なぁバニーちゃん、トラってひょっとして…もしかして…」
 さすがに虎徹もピンと来て、ふわふわと彷徨わせた視線をバーナビーと合わせる。
「…えぇ、そのもしかして、のようですね」
 応えるバーナビーも動揺しているのか、声が上擦っていた。
 アンドロイドのトラに、仕事に支障が出るほど想う相手が出来るとは。出会った頃はお互い興味が無さそうだったのに、虎徹の知らないうちに打ち解けていたようだ。
「ふ…ふふ…そっかそっかー」
「なるほど、だからシステムチェックをしても原因が分からなかったんですね…」
「マスター? コテツ?」
 虎徹とバーナビーを不思議そうに見つめてくるトラに、思わず口元が緩む。どうして笑ってるんだとトラに言われても、口元は元に戻らない。
「トラ、お前ウサのこと好きなのかー」
「……私が、ウサを?」
 たっぷり間を開けてから虎徹の言葉を反芻したらしいトラは、次の瞬間スイッチが切り替わったみたいに声を荒げた。
「そんな事、ある訳ない! ウサなんて、好きじゃない…!」
「あれ、そ、そうなの?」
 珍しいトラの反応に、虎徹とバーナビーの二人は驚いて目を見合わせる。トラ本人も意図しなかったのか、口元を押さえて黙り込んでしまった。照れているとはまた違う様子だ。
「今日はもう休む。おやすみなさい…」
 そう言って急に立ち上がったトラは、食器は流しに置いておくだけでいいからと言い残して部屋に向かってて行ってしまう。
「お、おう…?」
 沈んだ様子のトラに虎徹が呆気に取られていると、トラの背をバーナビーが呼び止めた。
「今のあなたは少し混乱しているだけです。何度も言いますが、壊れたわけではありません。それと、これは提案なんですが、ウサに会いにいきませんか?」
「……どうして?」
 振り返ったトラが、怪訝な視線を寄越す。
「ウサの事ばかり考えてしまうのだったら、直接会って話せば、何か分かるかもしれない」
「……分かった」
 素直に頷くとトラは、またのそのそと歩きだして今度こそ部屋へ戻って行った。
「なんか、俺、言わなきゃよかった?」
「いえ、トラも感情に理解が追いつかず、元々混乱していたんでしょう。まぁ、虎徹さんの一言がとどめになったみたいですけど」
「……おい」
 やっぱり良くなかったんじゃないかと隣のバーナビーを睨みつけようとして、突然肩に重みが掛かって出来なかった。
「虎徹さん、僕が製作に関わったウサとトラの二人には、どうやら僕の感情が影響しているみたいなんです。厳密に言うと、僕の虎徹さんへの感情が」
「なんかそれ、前にウサが言ってたぞ」
「あれ、そうだったんですか?」
 確か遊園地に行った時だったか、と記憶を巡らせている間に肩に寄りかかっていたバーナビーが、ずるずると位置を変えて虎徹の膝に落ちた。眠いのか、若干目がうつろになってきている。
「だけど、僕の感情が影響していたはずなのにウサはトラに興味を持ち始めた。ラボでのメンテナンス中も、ウサはトラの所に毎日通って来てたんです。おそらく、二人のAIが日々進化、成長しているように、その感情も変化したんだと思います」
「ばにー?」
 解説を求めようにも、難しい話をつらつらと喋り続ける器用なバーナビーの視線はふわふわと彷徨っている。瞼には今にも負けそうだ。
「だから、トラに同じ症状が表れても自然に変化するんじゃないかって思ったんですけど、変な所で頑固なのは誰かさんに似たのかな…」
 誰かさんて俺のことかと、くすくす笑うバーナビーの頬をバーナビーの頬をつねってやるが、痛がる反応が無い。
「こら、寝るな。まだ風呂入ってないだろー?」
「あしたでいいじゃないれすかー」
 もそもそと腹に巻きつかれて、諦めた。すぐに静かな寝息を立て始めたバーナビーの髪を撫でながら、虎徹は、息をつく。
 テーブルの上の残したままだった、牛乳プリンのようなものを再び掬って食べてみる。やっぱり癖になりそうな、不思議な味がした。

作品名:グロウアップ・デイズ 作家名:くまつぐ