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守護霊カメラ

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島田のアプリ『守護霊カメラ』はそこそこ評判になり、女子高生やOLなど、若い女性の間で流行っているようだった。
俺も早速アプリをダウンロードして、自分のスマホにインストールしてみた。
女の子が参加する飲み会なんかで見せてみると、みんな面白がってけっこうインストールしている。
この調子だったら、島田はけっこう儲かっているんじゃないだろうか。
俺がそう思って島田と連絡を取ったのは、その翌月だった。もし、儲かっているのだったら、多少そのおこぼれに預かれるかも知れない、という下心が無かったと言えば嘘になる。
なにしろ俺は、実家からの仕送りだけでは生活できず、バイトのわずかな収入を足してでぎりぎりの生活をしているのだ。
俺たちはまた渋谷の居酒屋で飲むことにした。

一か月振りに会った島田の顔色は、冴えなかった。いや、むしろ、冴えなかったと言うより悪かった。島田自身も元気が無く、俺は心配になった。
「どうした、島田、顔色悪いし、元気ないぞ。あのアプリでなにかトラブルでもあったのか。」
「いや、あのアプリは好調さ。けっこう売れてて、それなりに金が入って来るし。」
島田はそう言うと、手元に目を落とした。
「だけど、ここのところ、ずっと体調が悪いんだ。なんか、こう、肩の辺りがずっしりと重くて、食欲は無いし夜もよく眠れないし・・・」
「大丈夫か、病院には行ったのか。」
「ああ、行ったさ。でも、特に悪いところは無いとさ。」
俺は島田のことが心配になった。
だけど、俺がトイレから戻って来たときに、座っている島田の背後から、俺のスマホの『守護霊カメラ』で見てみたのは、単なる気まぐれだった。
背中を向けて座っている島田の背後、俺から見たら島田の手前には、背中を丸めた貧相な中年の男が佇んでいた。俺がスマホで覗いていると、その貧相な男がゆっくりと振り向いた。男の貌は、なんと言うか、暗かった。特にその落ち窪んだ目が昏く光っていて、薄気味悪かった。
その男は振り向くと、俺に向かってにたりと笑った。
俺は背中がぞくりと震え、あわてて守護霊カメラを終了させた。
俺は席に着いて、テーブルの上を改めて見回した。島田はほとんど飲んでいないし、食事もしていなかった。
「なあ、俺から誘っておいてこんなこと言うのもなんなんだけどさ、おまえ、もう帰った方がいいんじゃね?
すごい顔色悪いし、食欲も無いみたいだし。」
「ああ、そうだな、その通りだ。もう帰るよ。」
島田はそう言うと、ゆらりと立ち上がった。
「うん、その方がいいよ。」
俺は勘定を済ませると、島田に続いて店を出た。渋谷駅まで肩を並べて歩いたが、その間、ずっと無言だった。
俺と島田は利用している電車の路線が違うので、駅前で別れる。俺は別れ際に島田に尋ねた。
「なあ、おまえの『守護霊カメラ』だけど、バージョンアップしたの? 静止画ではなくて、動画を表示できるように変えたのか?」
島田は驚いたように俺の顔を見て答えた。
「いいや、ずっと体調が悪くて、バージョンアップなんかできる状態じゃなかったよ。なんでそんなこと聞くんだ?」
「いやね、さっきの店でおまえの背中を『守護霊カメラ』で見てみたんだよ。そしたら、写っていた人の画像が動いたから・・・」
「へ? 何言ってんの。前に『守護霊カメラ』は顔認識技術を使っているって言っただろ。顔が写っていなければ、守護霊の映像も写るわけないじゃん。顔が認識できないんだから。」
俺はその島田の言葉に茫然とした。
確かにそうだった。背後から、顔が見えない状態で写して、映像が写り込むはずがない。だとしたら、さっき島田の背後にいたあの男は・・・
島田は俺に、じゃまたな、とだけ言い残して立ち去った。ふらふらと歩いて行くその後ろ姿は、頼りなく、心細く見えた。
俺は意を決して、島田の後ろ姿をもう一度『守護霊カメラ』を通して覗いてみた。
さっきと同じ、貧相な男が島田の背中にべったりと貼りついていた。男は、その骨ばった両手をがっちりと島田の肩に喰い込ませていた。


作品名:守護霊カメラ 作家名:sirius2014