守人
-ここにいた。ずっとずっとここにいた。そして、君が来るのを待っていた。僕はいつからここにいたんだろう。それはもう分からない。-
ここにはなにもない。ここには僕しかいない。真っ白いこの空間には、たまに人がやってくる。僕は座ってそれを待っていた。僕の名は一希。この空間を護る者。神に連れられここに来た。僕はずっとここにいる。これからも、これまでも。そして、君を待っていた。何もなかったこの空間に君という者がきた。君はそこに立っていた。
「君は...。待っていたよ。」
「...ここは一体。あなたは?」
少女は妙に落ち着いていた。髪の長く、セーラー服に、暗い瞳。一希の目にはそれらが新鮮に見えた。
「僕は一希。なぜここに来たか知っているかい?」
「ここは天国?私は確か飛んだ。屋上から。」
「どうして?」
一希の純粋な瞳に少し少女は戸惑った。
「疲れちゃったから...。」
一希は少し笑みを浮かべると、立ち上がって遙か彼方を眺めた。もちろん遙か彼方にも何もない。
「うらやましい...。」
「えっ...。」
「空がある。雲がある。人、生き物、草、木、光、闇がある。僕は見たこのなどない。」
「でも、いらないものもたくさんあるんだよ。」
「君は捨てた。一つしかないものを。それは平等ではない。お前はそれを捨てた。君は生きねばならなかった。希望を捨ててはいけなかった。」
「あなたはなぜここにいるの?」
「前世(かこ)で罪を犯した。神は許さなかった。僕はここにいる。この身が滅ぶまで。」
少女の目は後悔の色で染まりつつあった。一希は笑ってこういった。
「帰るかい?まだ間に合う。」
「帰れるの?」
「もちろんだ。ここは狭間。帰れるし、逝けるから君はここにいる。忘れるな。地上は奇跡であふれている。平等な命はない。それでも君が生きているのは上の位を手に入れたからだ。感謝することを忘れてはいけない。さあ、いくがいい。」
少女は消えた。僕はまた一人になった。僕はまた座った。
「空...。前世(かこ)では見たのかな...?」
僕はまた人を待つ。僕は永久に空にこがれてこの空間で人を待ちながら、ここと君たちを護る。僕は一希。希望を与え、君たちを還す者。僕は君たちの守人。