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数式使いの解答~第二章 雪と槍兵~

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《序幕》雪の狩人


 吹雪。
 今、雪山のとある一角では、雪のカーテンがあらゆる視線を隠している。
 その中を進む、小さな影がひとつ。ぽつぽつとした、ゆっくりとした歩みだ。
 それは、慣れないもので困惑するような、迷いのあるものではなく、それがどんなものなのかを知る、賢者のものだ。
 しかし、その小さき賢者を狙うものたちが、白い世界には潜んでいた。
 長いくちばしを持ち、全身灰色の羽毛に包まれた、飛べない翼を持つもの――ジャベリンペンギンと呼ばれる、稀有な鳥だ。
 彼らはペンギンのような姿をしているが、飛ぶのは海ではない。彼らが飛ぶのは、積もった雪中だ。
 その速度は最高で時速百キロにもおよび、雪山最速の生物として恐れられている。
 もちろん、恐れられている原因はその速さだけではない。彼らのくちばしは、鳥類の中でも硬い部類に入り、その鋭さは下手な工具よりも鋭利だ。
 その天然の槍とでも言うべきくちばしと、雪の中を高速かつ自在に飛ぶ力を用い、彼らは狩りをするのである。
 獲物には、ウサギやキツネといった小動物だけでなく、オオカミやクマといった大型の肉食生物、さらにはヒトすらも入る。群体を組んで行動し、ときに"軍隊ペンギン"とも呼ばれることから、その脅威を想像できるだろう。
 彼らは、狙った獲物は逃さない。
 小さな影が気づくよりも早く、雪の中を飛翔した。
 一息で速度に乗り、不意をついて襲い掛かる。しかし、その攻撃は空を切った。
 動物としての、鋭い本能が警告する。
 ――コイツはヤバい、と。
 離脱するために、雪の中へと再び潜る。その様子から、仲間たちも身を翻し、影から距離をとろうとする。
 だがそれは、一瞬でできなくなる。
 彼らの飛ぶ空が、水へと変化したのだ。
 突然の現象に驚き、水の中で暴れる。
 そして、慣れぬ水中から彼らは見た。岩の上に唯一乗り、安全なそこから見下ろす小さな影を。
 やはり、本能は正しかった。そう確信したのと同時、強い上昇気流が生まれた。
 水がさらに変化し、蒸気へと姿を変えたためだ。
 高熱の蒸気に身を焼かれ、小さな影を襲ったものたちは、残らず絶命した。
 それが終わったことを確認すると、影は岩から下へと降りる。
 そして死体へと近寄り、おもむろに口を開いた。
 ――がしゅ、ぐしゃ、ごりごり、ごぷり、ごくん。がしゅ、……。
 規則正しく聞こえるのは、咀嚼の音。
 食事は、吹雪の間、ひっそりと行われた――。