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じゃりじゃりとしていて小気味良く指にひっかかる、安物ライターの着火部の感触。出来の悪い錆びついた車輪を軽い力をこめてまわすと、まるで何か別の力によって引き起こされたように唐突に生じる頼りない炎。無味無臭の、乾燥していて従順で、それでいて独立心の旺盛な田舎の神童のようだ。

彼は何もかもを知っているが、生きることだけを知らない。
人生が、疲労が、大人が、それらが何を意味するのか、彼は知りえない。それは彼の空間と認識の地平を越えた、彼の生とはかけ離れた別の系での出来事な
のだ。

それでも彼は、遠くから迫り来るそれらの気配を感じつつある。まだ見えも聞こえもしないそれらが、この自分にも内包されているという恐怖を直感的に感じとりつつある。それらの萌芽が、呪いが、自分の奥深くにぬぐい様も無く刻み込まれていることを、漠然とした不安の中で感じるのである。

それが何を意味するのかはわからない。ただ、感覚の感覚が胸の中を意地汚くかき乱すのを混沌の中で眺めるやることしか出来ない。少年はこの感覚の感覚をまともに探ろうとするとき、まるで脳に直接の刺激を与えられたときのようにいつも嘔吐感を催すのである。
いわば本能的な嫌悪感によって、彼はそこから視線を逸らせることを余儀なくされるのだ。

どうやらこの世は地獄のようだ、そう彼は思う。