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お悩み解決戦線

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■第二話■



 休日のよく晴れた昼下がり。春といえど、まだ風は強く肌寒い。
 フリオニールは質のいいジャケットとスラックスを着て、公園の噴水広場で人を待っていた。
 この公園は駅に近いだけあって、多くの人の待ち合わせ場所として利用されている。噴水の縁に腰掛けて携帯をいじる者、公衆トイレ脇にある時計を頻繁に見上げる者。
 フリオニールは黙って噴水の前に立っていたが、いつにも増して緊張していた。
 噴水から少し離れた場所に、公園全体を見渡せる茂みがある。そこに目を凝らしながら、携帯電話をかけた。
「本当に、大丈夫なんだろうな。こんな作戦」
『うわっ、のばら! なにコッチ向いてしゃべってんだよ! 例のあの子、今日も陰でストーキングしてんだぞ。前向いてしゃべれ、前!』
「……ハイハイ……」
 フリオニールは仕方なく、がさごそと騒がしい茂みをなるべく視界に入れないよう配慮した。公園の時計を見ながら、いかにも未だ来ない待ち人と携帯で話しているように見せかける。
 電話の向こうでは、呆れ混じりにバッツが口を開いた。
『ったく、いい加減腹括れよ。オレらは剣道部の友だち助けるためにも、おまえのためにも、この問題は早めに片付けといた方がいいからやってるんだぜ』
「だからってなあ、」
『ジターン。フリオがこの作戦に不満だとさー。なんとか言ってやってくれよ』
『不満?』
 作戦参謀のもう一人が電話に出て、それこそ不満気な声を漏らす。
「不満というか、まさか相手が“アイツ”だとは思わないだろ。すぐバレるに決まってる!」


 社会科研究室で告げられた作戦に、フリオニールもティーダも、突然巻き込まれたクラウドも目を丸くした。
「偽装デートでフリオニールに恋人がいると思わせるんだよ。どうなると思う?」
 ジタンが尋ねると、あらかじめ作戦内容を知っているバッツが元気よく手を挙げた。
「はーい先生。嫌がらせが激しくなると思いマス!」
「正解だ、バッツくん。恋人がいる事実を知って、諦める可能性がないともいえないけど。一層ハードなストーキングになる可能性のが、ずっと高い」
「……わざと墓穴を掘らせるのか」
「さすが。クラウドは察しがいいな」
 率直な褒め言葉に、クラウドは肩を竦めた。ティーダが目を瞬かせて、首を傾げる。
「どういうこと?」
「相手を陥れるんだろ。現段階で証拠を掴むのが難しいなら、もっと証拠を掴みやすい嫌がらせをさせる」
 ジタンが不敵に笑った。
「偽装デートが成功すれば、ターゲットは嫉妬で我を忘れてる。そんな彼女の前で、わざとフリオニールが家の鍵を落としたら?」
「はーい先生。思わず自宅に侵入しちゃうと思いマース!」
 フリオニールは眉を顰めた。
「……そこまで思い切ったことをするものなのか?」
「盗撮に盗聴。あとは、家具の配置変えるとか。ストーカーってのは倫理観と理性が常識の枷から外れちゃってんの。彼女がどこまで犯罪に走るかは、彼女次第だけど」
「モチロン、犯罪は事前に防ぐつもりでいるけどな! オレらは、鍵のかかったフリオの家で彼女が侵入してくるまで待機」
「その段階に行くために、まずは偽装デートを成功させねえと。そこで、クラリスの出番」
「クラリス……?」
 ――誰?
 フリオニールがティーダに尋ねれば、ティーダは知らない、と首を振る。
 バッツとジタンが、完全に面白がっている顔でクラウドを見た。あまり感情を表に出さないクールな男が、あからさまに嫌そうな表情になっている。
「お前たちが俺に話した時点で、そうくるだろうと思ってた」
「……え、え? クラリスって、クラウドの妹かなんか?」
「それ名案だな、ティーダ! その設定で行こう」
 バッツが愉しげに、パチン、と指を鳴らした。
「あとは、オレたち演劇部に任せな。バッチシな衣装と化粧、用意してやっからよ」


「女装したクラウドと偽装デートだなんて、誰が予想できたっていうんだ……」
『ほ〜う。レディに対して冗談にならねーくらい免疫のないアンタが、“本物の女の子”相手にうまいことデートできるとでも?』
 電話越しに、ジタンの地の這うような声が届く。
 土壇場での反論に、相当ご立腹のようだ。
『ただデートするだけじゃなくて、本気モード全開を装わなきゃ意味がないんだぜ? オラ、自信あるのか言ってみろ』
「くっ……。学校一のトラブルメーカー相手に、こうも否定できない事実を言われるとは……」
『アンタなあ、悔しがり方が失礼だぞ。別におれらは、自分から騒動起こさねえよ。おれもバッツも顔が広いから、必然的に巻き込まれやすいだけ。今回みたいに頼られることも多いし』
「そうだったのか。俺はてっきり、面白がって自分から首を突っ込んでいるもんだと……。悪いことを言ったな」
 フリオニールの謝罪に、ジタンは一瞬呆気に取られた後、「いいけど」と呟いた。
『アンタにティーダが懐いてんの、今ので分かった気がした』
『お? 今おれのこと話してるっすか? おれにも電話代わってー』
『……のわっ、おい!』
 電話の向こうが、途端に騒がしくなる。フリオニールは自然と笑みが零れた。
『――あ! きたきた、クラリス!』
 騒然とし出したのは、電話の向こう側だけではなかった。
 公園の入り口から、中央の噴水広場に歩いてくる女性がいる。
 胸元から腰、膝下から足首へと、上から下へすらりと落ちるロングスカートが肉付きのいい脚を見事に隠していた。肩に掛かったストールが女性らしい見目姿を更に麗しく際だたせ、緩くウェーブのかかった金髪が少し広い肩幅をカバーしている。
 強い春風に髪が靡くと、バイオレットやローズを思わせる高貴で蠱惑的な甘い匂いが、すれ違う者たちの鼻腔をかすめた。
『うっはー! 綺麗っすね〜。聡明でスレンダーな金髪碧眼お色気美人。のばらが羨ましいっす』
 素直に感心しているティーダに、フリオニールは心中複雑だ。
 クラウド――もといクラリスが、少しだけ口元をゆるめて待ち人に手を挙げた。公園中の視線が噴水広場に集中する。
『おれらが頼んだ“アイツ”に、なにか問題でも?』
 電話越しから、ジタンのしてやったりの笑い声。
「…………」
「待たせたな」
 唖然と沈黙しているフリオニールに反して、クラウドは慣れた様子で挑戦的に見上げてみせた。
 女性にしか見えない風体だが、まるで腹を決めて戦場にでた武士のように、男らしい。