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お悩み解決戦線

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■第六話■



 夕闇だった空は、いつのまにかすっかり暗くなっていた。
 地面に崩れ落ちてすすり泣く彼女の嗚咽は、ティーダが今日何度も感じたあの胸の痛みを思い起こさせる。何か声をかけなければ、と思っていたところに、公園の奥からバッツとジタンが現れた。
「彼女の相手は、ジタンに任せときなって。適任だから」
 心配した面持ちのティーダとフリオニールに、バッツがそっと指し示す。
 ジタンに優しく声をかけられて、彼女の嗚咽は徐々に収まっていった。
「なんだかオレのことなのに、何から何までみんなに任せっきりだったな」
「そこがフリオのフリオたる所以だよなっ。気付いたら変なことに巻き込まれてて、最後まで巻き込まれっぱなし」
「そんな、人を苦労性みたいに……」
「違うんすか?」
「………………」
 二の句が継げなくなった末に、フリオニールは深く嘆息した。
「ティーダ。あのとき、どうしてオレが止めろと言ったのに止めなかったんだ?」
「あのとき?」
 首を傾げるティーダに、フリオニールは水に濡れてしまったネイビーブルーのジュエリーケースを指差した。
「もういいからと、オレがあれほど言ったのに」
「だってそれ、大切なんだろ?」
 不機嫌なフリオニールを見つめて、少し照れくさく笑う。
「……おれ、おまえが大切にしてるものを守りたかったんだ」
 フリオニールの顔にみるみる朱が差していく。
 ああ、なんかのばら茹で蛸みたいで面白いなぁと思っていたら、不意にガッ、と渾身の力で両肩を掴まれた。
「お、お、お?」
 眼前にフリオニールの真摯な顔が迫る。そのとき、冷たい風が二人の間を吹き抜けた。
「ティーダ! オレは、この指輪おまえのために、」
「――へっくしょい!!」
 フリオニールの言葉は、ティーダのくしゃみで完全にかき消された。
「さぁぁみぃぃぃいいいい! バスケとサッカーと水泳で鍛えまくってるけど、流石のおれでもこの時期の水ちょー冷てぇぇええええっ凍りそう!!」
「ほら」
 ガタガタと震えるティーダに、クラウドが真っ黒なロングコートを差し出す。
 冬のコートだから悪目立ちするが、公園まで女装したまま来るのが嫌で、仕方なく着てきたものだった。
「サンキュー! すげぇあったかい。あ、そだフリオ。さっきなんか言った?」
「………………いや……なにも」
 唖然として言葉を失ったまま硬直していたフリオニールは、絞り出したようにそう言うと、やがてガックリと肩を落とした。
 首を傾げるティーダに、更に項垂れるフリオニールを、クラウドは心底不憫に思う。
「まあ、何はともあれ。これでめでたく御役御免だ。やっと女装から解放される」
「可愛かったよんクラリスちゃん! 次なんかあったときもよろしくな」
 ニヤニヤしながら自身の肩を抱くバッツの首を、クラウドは怒りも顕わにぎりぎりと締め上げた。
「次って、またおれを騒動に巻き込むつもりか。……そんなに月の王国に召されたいならそう言え……」
「苦しい、苦しいってクラリスちゃん! 首締まってる! てかオレ、セーラームーンじゃないから! 額の飾りでムーンティアラーアクションとかできないから!!」
「……即興漫才っすか?」
「誰がするかっ!!」
 クラウドに怒鳴られて、ティーダは目を丸くする。何か変なことを言っただろうか。
 その肩を、フリオニールが憔悴した様子で叩いた。
「そのくらいにしとけ。あいつら仲がいいんだ。多分」
「フリオ! 復活したっすね!」
「ああ、お陰さまで……。やっぱり、自分が何を言ったか分かってないんだな……」
「なにが?」
 フリオニールは仕方ないなあ、と苦笑いを浮かべて、ティーダの濡れた頭を撫でた。
「……いや。オレも、おまえのこと大切にしたいって。そう思ったんだ」
 慈愛に満ちたフリオニールの微笑み。その眼差しに、どこか熱情じみたものが混じっていた。
 どんなに押し殺しても抑えきれないとでもいうように、瞳の奥に強い光を滲ませながら、情けなく眉尻を下げている。
 ティーダの頬は、みるみるうちに熱く火照り始めた。
 フリオニールの言葉を無意識に胸中で反芻するたび、鼓動が激しく音を響かせる。
 あれ? なんかおれ、ちょっと可笑しくね?
 水浸しの身体は冷たい風に曝されて冷えきっているのに、胸の奥からカッと熱くなってきて、そわそわと落ち着かない。 
「当然っ、おれら最高のダチだもんな」
「……ああ。そう、だな」
 誤魔化すようにそう言うと、フリオニールが押し殺した声で苦く呟いた。熱に浮かされた眼に、僅かに焦燥を滲ませて、歯噛みするように息を吐く。
 それは、ティーダが予想していたものとは大分違う反応だった。
 なあ、なんでそんな顔してんの。
 ティーダは口を開きかけて、押し黙った。フリオニールにとっては違うのだろうかと、不安が脳裏を過ぎる。
 ティーダの不安を機敏に察知したフリオニールが安心させるように笑っても、それはティーダの心に薄い染みを残して、何度拭っても拭いきれなかった。
「さあて、問題解決したし。帰るか」
 バッツの言葉に、ティーダの思考は遮られた。バッツの元気な声を聞いていると、言い様もなく押し寄せる不安が、途端に大したことのないように思えてくる。
 別に、問題視するほどのことでもないよな?
 フリオニールが隣で笑っていて、バッツが大きく伸びをして。
 肩を竦めたクラウドが、
「そうだな」
 と呟きながらフリオニールの傍に立っていても、胸は全く痛まない。
 今は、それでいい気がした。
 バッツとクラウドの視線の先には、ジタンと彼女が公園から連れ立って出て行く姿があった。周囲はすっかり暗くなってしまったから、送り届けるつもりだろう。
「あ! クラウドもその格好だと危ないから、おれ送るっすよ」
「風邪を引かせないためにコートを貸したのに、それでは本末転倒だ。ティーダは家に帰って、早いとこ風呂に入れ。俺は一人で大丈夫だから」
「だから、女の格好のまんま一人で夜道歩いてたら危険だって! このへん変質者多いし。やっぱおれが送る!」
「おまえな……。それなら、送らなくていいからコート返せ」
「ヤダー。脱いだら寒いもん」
「男が“もん”とか言うな、力が抜ける……」
 尚もぎゃいぎゃいと繰り広げられるティーダとクラウドのやり取りに、フリオニールは腕組みをして、呆れ交じりの眼を向けた。
「おまえたち、いい加減にしないか。いつまで経っても帰れないだろ」
 仲裁しても一向に譲ろうとしない二人に、フリオニールは口を引き攣らせた。
 月の綺麗な夜空に拳骨の音が響き渡るまで、後三秒。


『よお。今日もお疲れさん! スコールが心配してた問題、無事解決したぜ』
「……まさか、また一騒動起こしたんじゃないだろうな」
『ひでえ! 人聞きの悪いこと言うなよ』
 否定はしないけど、と続けられたバッツの言葉に、スコールは頭が痛い思いだった。
 携帯電話の向こうがやけに騒がしい。
 何人かが言い争っているような、ふざけ合っているような声が聞こえた。
「今、どこにいるんだ?」
『駅の近くの公園。噴水のあるとこ。スコールも剣道部の試合がなきゃ、今日来られたのになあ』