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お悩み解決戦線

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■第五話■



 公園前で呆然とたたずむティーダは、ポケットで鳴る携帯の音にようやく我に返った。
『遅刻だぞーティーダ。とりあえずそこじゃ目立つから、どっか隠れとけって』
「なあバッツ、今状況どうなってんの?」
 ストーカーの女の子に不審がられないよう、身を隠しながら噴水に近付き、迷った末にベンチの陰にしゃがみ込んだ。
 騒ぎの中心とは目と鼻の先だが、彼女からは丁度死角になっているのでまず安心だろう。
『ん〜なんつーか、予想以上にヤンデレ』
「あの子の性格じゃなくて、状況教えてくれって」
『計画だとさあ。フリオがクラウドに指輪渡して、そのあと適当にイチャついた後、これ見よがしに家の鍵を落とす手筈だっただろ。指輪渡すまでは良かったんだけど、どうも彼女、頭に血が上っちゃってる感じだな。まっさか、ナイフ持ち出してくるとはね〜』
 バッツ独特の間延びした口調に、ティーダは緊張感が根こそぎ吸い取られていくのを感じた。
「……なーんか、全然心配してないっすね」
『だってあの二人だぜ? 女の子どころかヤクザにだって太刀打ちできねえし』
 言われてみればその通りで、身を強張らせる緊張感が更に離れていく。
 だが、得体の知れない不安はどうしても拭いきれなかった。
「あの二人、女の子殴れんの?」
『クラウドは必要とあらばするだろ。手加減はするけど。ただ、あいつ今クラリスちゃんだからな〜。相手は同じ学校の生徒だから、自分から正体バレるようなことはしないだろうしな〜。ってことは、フリオに任せるしか』
「フリオが殴れるわけないって! ミスター童帝だぞ」
『………………』
「………………」
『……………………あちゃー』
「あちゃーじゃねえっつーのッ。どうすんだよっ。この場どう上手く収めんのっ!?」
『落ち着け、ティーダ』
 深く考え込み始めた様子のバッツに代わって、僅かに声を硬くしたジタンが電話に出た。
『今は、あいつらの判断に任せよう。やばくなったら流石に助けに入るけど。部外者が大勢出て行って、むやみにレディを刺激するわけにはいかないだろ』
「……うん」
 わかった、とか。了解っす、とか。
 普段のティーダなら、暗い雰囲気を吹き飛ばしたくて、場違いに明るい返答をしていたはずだ。
 でも今は、そんな気分にもなれなかった。
「おれ、それまで我慢できっかな」
 通話を切った携帯を見ながら、泣き笑いのような顔で自嘲する。
 大切な友だちがピンチだってのに、傍で見てるだけなんて。こんな、自分らしくないこと。
 ベンチの陰で項垂れながら、虚ろな目で座り込む。夕暮れに染まった景色を呆然と眺めて、ふと今日観た映画のワンシーンを思い出した。
 ――夕暮れの空の下、死んでいった主人公とその恋人の墓の前で泣く、親友の姿。
 記憶のなかで、その姿が自分と重なって見えた。
 虚ろな目に、段々と光が戻っていく。大丈夫だ、と。ティーダは確信めいたものを感じた。
 大丈夫だ。おれなら、絶対に間違わない。
 それまで葛藤で震えていたのが嘘のように、双眸に強い光が宿る。ティーダは気を落ち着かせて、フリオニールたちの様子をそっと窺った。
 激しく罵る女の子が、フリオニールとクラウドに向かって、ナイフを振り上げるのが見える。
「――! 駄目だっ!!」
 ティーダは衝動的に身を乗り出していた。駆け出したい思いに駆られ、唇を噛みしめる。
 激しく二人に言い募る彼女の声は、離れていてもはっきりと耳に届いた。

「どうして? 恋人はいないって言ったじゃない。今は誰とも付き合う気はないって。だから、私のことでいっぱいになってくれたらって」
「無言電話も、遠くからの視線も、きみだったんだね」
「とぼけるんだ。知ってたくせに。……当然か、フリオくん優しいもんね。こんな風に嫌がらせみたいなことをしても、私のこと一向に問い詰めにこなかった。私は来て欲しかったのに。私のこと、好きにも嫌いにもなってくれないなんて」
 誰に対しても優しいフリオニール。それが、彼女にとっては残酷以外の何物でもなかった。
 どんな形であれ自分を心に留めて欲しいと。ひたむきなまでの想いが、歪な形となって現れた。
「おれは、きみの気持ちには答えられなかった。でも、こんな形でなくたって」
「形なんてなんでもよかったの。ただ私のことを気にかけて欲しかった。だけど無理だった……。その人が、いたからなんだね」
「………………」
 クラウドは沈黙したまま、静かな視線を向けるだけだった。
 下手に発言したところで、彼女よりも絶対的に優位な立場にいるクラウドの言葉は相手を苛むだけ。マイナスにしかならないだろう。何も言わない方が賢明だと、判断した結果だった。
 それでも、落ち着いたクラウドの視線を、彼女は憎しみの籠もった眼で睨み返した。苛立たしげに顔が歪む。
「ねえ、なんとか言ったらどうなの。なんとか言ったらどうなのよ――ッ!!」
「――!! 危ないッ」
 ナイフがクラウドの目の前で振り下ろされる。
 本気で当てるつもりはないと気付いてはいたが、身体に触れるすれすれの距離を裂いていくそれから、フリオニールは咄嗟にクラウドを庇っていた。
 フリオニールに肩を押され、クラウドの手からネイビーブルーのジュエリーケースが落ちる。
 自身の足下で存在を主張するそれを、彼女は緩慢な動作で拾い上げた。
「それは……」
「本当、信じられないわ。高校生が、指輪なんて」
「返してくれないか」
 手を差し出すフリオニールを一瞥したが、彼女は渡そうとはしなかった。
 悲痛な表情を浮かべて舌打ちしたあと、ジュエリーケースを持った手を大きく振り上げる。彼女の手から投げられたそれは、緩やかに弧を描いて、噴水の水面へと吸い込まれていった。
「指輪が……」
「アンタ、自分が何をしたのか分かってるのか」
 クラウドが、僅かに険しい表情を浮かべて口を開く。ずっと黙っているつもりだったが、流石に腹に据えかねていた。
「分かってるわよ。フリオくんとあなたを傷つけたかったの。傷ついて傷ついて、私を憎めばいいのよ!!」
「――もう、止めろよ」
 パシャリ、と。水の爆ぜる音に、視線が集まる。
 膝下まで浸るほどの噴水の泉を、バシャバシャと音を立てて歩いていく。吹き上げる水が頭から顔から降りかかるのもお構いなしで、ティーダは一心に、泉の底を手で探っていった。
 落下した場所は覚えている。夕陽が完全に落ちる前に、なんとしても見つけなければ。
 周囲は暗くなり始めていて、悠長にはしていられなかった。
「ティーダ、何やってるんだ! そこから出ろっ。そうまでして、探さなくていいから」
 春先の夜は、昼間に比べて気温が著しく低下する。水の冷たさも尋常ではない。
 悲痛に叫ぶフリオニールに、ティーダは一瞥もくれなかった。ただ、必死に心配してくれるその声には、不謹慎な嬉しさと一緒に申し訳ないなという気持ちが湧いてくる。
 それでも、ティーダは探すことを止めなかった。
「……なによ。関係のない人が出てこないで」
「アンタには関係ないかもしれないけどさ。おれにはあるんだ。おれは、そいつが大切だから」