徒然な日常
生き霊。
聞いただけで厄介で面倒臭いシロモノ丸出し、なブツです。
割と「出やすい」シロモノでも有名ですね。
似て非なるモノに水子がありますが、今回は生き霊のお話。
さて、まずはヤツらは何故割と簡単に出来やすいのかを説明。
平たく簡単に言うと「執着心」「嫉妬」などを核にポンッと出来上がります。
生き霊としての強さは本体の意思の強さに比例します。
だから恨み辛みや恋愛沙汰などで良く耳にするわけですね。
それをふまえて今回のお話。
風も涼しくなって秋めいたある日。
なっちゃん宅にてまったりコーヒーブレイクのおねいちゃんとなっちゃん。
女同士の肴に付き物の恋バナをしていたらナニかが飛んできました。
「なんだ? なんか来た」
「うん、来たね」
なっちゃんのお家はある意味通り道なので薄く結界が張ってありますがこんなことは日常茶飯事だったりします。
「うわぁ、暗いわぁ。そろそろ祓い頃かなぁ」
「溜まってないからまだ大丈夫じゃない? ……てか」
「んー? どした?」
コーヒー啜りながらのほほんとなっちゃん。
「モーレツに眠いわ」
「その辺、転がれば? 勝手にやってるから」
そうする~、と畳の上でゴロゴロしだしたおねいちゃん。
しばらくして「眠いのになんかへーん」と言い出しました。
飛んで来たナニかはおねいちゃんにぴとーっと張り付いた模様。
あまりのフィットさに同情を禁じ得なかったなっちゃん。
傍にしゃがんで見て内心、すげーなんだコレとある意味感心しました。
「どら。熱くても我慢しなよ」
「ナツー、いいよー、疲れるからー」
「あんたはおとなしく転がってなさい」
「はぁい」
右肩から触って、辿り着いた背中を手の甲で叩くとバチンと音を立ててソレは離れました。
が。
「ぁんじゃこら」
恨み節満載っぽいソレはスライムの様な感じの形状で、おねいちゃんからなっちゃんに移動しただけでした。
「呆れた」
ソレを見つめておねいちゃんはバッカじゃないの? と言わんばかりに吐き捨てました。
「ナツ、かっしぃの名前呼んでみ?」
「かっしぃってなんて名前だっけ?」
「カズヤ」
ソレの様子がちょっと変わりました。
「あれ?」
「いいから。呼んでみな」
「カズヤ」
スライムはポッとピンク色。
「……これって例の元カノ?」
「確定ね」
「生きてたよね?」
「死んではいないわね」
苦々しくおねいちゃんは言います。
おねいちゃんの今彼には腐れ縁のような元カノが居たのです。
元鞘に戻ればいいものを付かず離れずで繋がっていたので歴代の彼女達は皆去っていったと言う話もあるとかで。
趣味悪だと他人事のようにからかっていたなっちゃんだったのですが。
まさか恨み節かと思いきやヤキモチで生霊を飛ばしてくる輩だったとは。
「……」
「……」
暫く見つめ合う二人。
「さーて帰るかな♪ ナツー、ごっちゃま☆」
「コラ待て。本体の名前は?」
「えー? 聞こえないー☆ じゃーねー♪」
混んでないと良いなー♪ とるんるんとおねいちゃんは帰っていったのでした。
スライムおいて。
「……かっしぃ覚えてろよ。オマエ名前は?」
『ケッ』
「カズヤ」
ポッ。
そんないい男かねぇ、あれが、となっちゃんは首を傾げます。
「帰れ、邪魔くさいから」
『やーよー』
「カズヤ」
ポッ。
「……」
面白い。
「カズヤ」
ポポポポッ。
こりゃいいわ、となっちゃんはちょっと楽しくなってきました。
「なぁ名前は?」
『……』
「じゃあ暫定ピンクな。私の為にキリキリ働け?」
なっちゃんはニヤリと笑って告げました。
名前を与えると言うことはそういうことなのです。
定位置は何故か洗濯機の上。
多分誰も居なかったのでちょうど良かったのでしょう。
こうして暫定ピンクはなっちゃんの使い魔になったのでした。