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ジェネレーション・ギャップ

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「今、お幾つですか?」

20歳ぐらいの金髪だが真面目そうな青年(まぁ、ワシにとっちゃあガキだけどな)が、若者の代表としてワシに質問してきた。
使い慣れないマイクに戸惑っていたり、その表情から多少緊張しているのが見て取れる。

「ワシの年齢か…確か今年で90になるかなぁ」

「おぉー」とか「へぇー」といった感嘆の声が若者の集団の間で交わされる。
全く…、いつものことだが年齢を言っただけで感動されるってのも変な気分がするな。

「それにしてもお元気ですね!」
「まぁね。毎日君達みたいな若者と話してると、こっちも元気が出てくるんだよ」

ざわざわと若者の間で笑いが起こる。
これでちょっとは緊張が解けたかな、金髪の兄ちゃん。

「今の若い人達についてどう思われますか?」
まぁ、定番の質問だな。
ま、いつものように若者受けが良い答えで行くか。

「今の若者はどうも頼りないね。体力もないし根性もない。ワシが若い時はもっと喧嘩とかやんちゃばかりしたもんだがね…今時の奴らはみんなヒョロッとした奴ばかりで心配になるわ」「そ、そうなんですか…」

日頃は年上から説教される機会などあまりないのだろう。
若者代表の金髪の兄ちゃんは、突然の若者批判に苦笑しながら答える。
そうなんだよ、兄ちゃん。
いつだって老人は若者の将来を心配をして、その代わりに老人は若者にとって心配の種だったんだ。
そう、ちょっと前までは。

「あなたが若い時はどんな時代でした?」
「ん?ワシが若い時か?そうだなぁ…」

思い出す振りをして、少し時間を稼ぐ。
お決まりの質問だが、パッと答えたら向こうも興冷めだろうだからな。
こういう演技も、時には必要なのだ。
とは言うものの、最近は本当に昔のことを思い出すのも一苦労になってきた。
過去の記憶を遡るにつれて、頭の中に白い霧がパァーッと沸いて来る感じだ。
そのうち、本当にワシには若い頃なんてあったんだろうかという気持ちになってくる。
…いかんいかん。
これでは、ボケが始まったみたいではないか。
ホォーッと一息つき、語り慣れた昔話をし始める。

「ワシが20ぐらいの時、世の中老人がうじゃうじゃいたよ。世の中の3人中1人が60歳以上のいわゆる高齢化社会って奴でな。やっぱりその時も、『今時の若い奴は…』なんて説教をワシの爺さんが言ってたのを覚えてるよ。将来は、人口の半分が高齢者になるって偉い学者が言ってたっけなぁ」
「へぇー、現代からでは、考えられませんね」
「あぁ、例のウィルスが蔓延したせいでな。忘れもしない、俺が40の時だ。60歳以上の人間にしかかからない、致死率100%のウィルスが地球上に蔓延したんだ」
「そのことなら、教科書で読みました。あなたは最後の生き証人そうですが…」
「あぁ、とにかくあっという間に地球上から年寄りがいなくなったさ。免疫があったのはワシ含めて極々少数だった。当時の科学者達はそのワクチンを作ろうとしたが、それはできなかった。なぜなら、ワクチンの作り方を知っていた老人が死んじまったからな。薬の配合量とか成分はコンピューターに記録されていたが、実際に実験室で顕微鏡を覗きながら、自分の手でワクチンを作るという技術を知っていたのは、老人だけだったんだ。その老人をウィルスは殺してしまった」
「皮肉な結果ですね…」
「全く、誰が作ったんか知らないが、よくできたウィルスさ。今となっては、地球上にいる60歳以上の人間はワシだけさ」

ガラス張りのケースの中から、ワシはケースを覗き込む若者達の顔を見回した。
そうなのだ。
世界中で残っている老人は自分ただ一人になってしまった。
今の地球は、例のウィルスのせいで普通の人間は60歳になったら死んでしまう世界になってしまった。
高齢化社会なんてもんじゃない。
「高齢不可」社会だ。
免疫があったワシの仲間も皆、老衰で逝ってしまった。
そして、自分は地球上に残されたただ一人の高齢者として、ガラス張りの部屋の中で手厚く保護されているってわけだ。
物珍しさから多くの人が見に来るようになり、ワシは最後の老人としてのせめてもの義務として、こうして毎日見学者と対談をするようになったのだ。
ガラスの向こうの金髪の兄ちゃんが、おずおずとマイクに話しかける。

「…最後の一人になって、寂しくはないのですか?」
「そうだな…寂しくはないさ。毎日君達みたいな若者が物珍しさに会いに来てくれるからね。ただ…」
「ただ?」
「逆に思うんだが、60歳で死ぬとわかっている君達こそ歳を取るのが怖くはないのかね?」
ガラス向こうの青年は、逆に質問され驚いた表情を浮かべたが、少し考えた後こう答えた。

「そうですね…。特に怖くはないです。だって、人間っていつかは死ぬんでしょ」
「それはそうだが…」
「だったら、いつ死ぬのかわかってた方がいいじゃないですか。その日まで精一杯生きられるし」
後ろの若者達が、金髪兄ちゃんの言葉にウンウンと頷いている。

『死ぬ日がわかるから、精一杯生きられる』
いつ死ぬかわからない時代で、精一杯生きていたワシらは一体何だったのか。
ワシはガラス張りのケースの中で天を仰いだ。

「これがジェネレーションギャップって奴か…」