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走り続けた、後

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「俺、この族やめるわ」
先輩が運転するバイクの後ろに乗って海に面した道を走っていると、世間話をするかのように普通に言うので、俺は面食らってしまった。
「え」
「だからこのバイクお前にやるわ」
先輩とは中学校の時からの付き合いだ。
クラスのハジキ者だった俺をこのグループに誘ってくれた恩人でもある。
だからこそ突然の告白に面食らって、何も言えなかった。
そんなことは構わずに、先輩はしゃべり続けた。
「親父がさ、ガンだったんだ。それで、余命半年だってよ。笑っちまうよな」
先輩はそう言いながら、笑って見せたが、その顔は半分泣いているようだった。
「そうすか…」
もっと気の利いたことが言えたらいいのに。
そんなふうに思った自分を見透かしたように、先輩は楽しそうに続けた。
「でもさ、悪いことばかりじゃないんだよ。初めて親父とマジで話すことができたっつーか?まぁ妹もいるしオレもこの年で働かなきゃいけない身になったってわけよ」
恐らくこれは本音だろう。
先輩が楽しそうにハンドルを切る感覚がバイクを通じて伝わってくる。
このバイクが自分の物になる喜び。
先輩がいなくなってしまう悲しみ。
そんなものより自分に去来した気持ちは「自分はこの先どうするんだろう」という不安だ。
自分もいつまでも暴走族を続けていられるわけがない。
そんなふうに思っている自分の気持ちに気付いているのかいないのか、先輩はバイクを運転しつづける。
すると突然バイクが止まった。
「ここさ、オレの秘密のスポットなんだけどよ。お前にだけは教えてやるわ」
海に面した普通の道なのだが、先輩の指差す先には夕日に染まった富士山が見えた。
「こうゆうときの富士山をダイヤモンド富士って言うんだってよ。女に見せて、あのダイヤをお前にやる、なんて言えばイチコロだぜ」
先輩は無邪気そうに笑った。
しかし、自分は他のことに目を取られていた。
暴走族をやめても、先輩はこれからも自分の人生を力強く走りつづけるのだろう。
先輩の背景には、まるで未来を象徴するかのように、眩しいほどのダイヤモンド富士が輝いていたのだから。
作品名:走り続けた、後 作家名:葱奴