アインシュタイン・ハイツ 304号室
関西の片田舎から、「そろそろ自立をしたいから」なんて言って家を飛び出してきた。
このハイツを選んだ理由は、まず家賃が安い事と、このなんとも落ち着いた雰囲気が気に入ったからだ。
「お兄ちゃん!ちゃんとお隣さんに挨拶とかいかんとあかんよ」
もっとも、気に入ったのは俺だけじゃないらしい。
さっき外で挨拶をした管理人さんとその猫に、妹のさくらのテンションは上がりっぱなしだ。
このままここに住みついたらどうしよう。俺の一人暮らしの夢が・・・!
そんな危機感を募らせつつ、横目で彼女を盗み見ると
早速テキパキと俺の荷物を解いて部屋を住める状態に整えていく。
一方、俺は畳の上にだらしなく転がっている。
同じ母親から生まれて、どうしてこんなにも違うのかいつも不思議に思う。
「ええよ。自分でやるからもう帰り。」
ぐったりと言うと、さくらの眼光が突き刺さった。
「管理人さんと仲良くなるまで帰らへん!!」
「アホか!管理人さんに迷惑やからさっさと帰れ!それより学校あるやろ!」
「わかってるもん。どうせ毎週来るし。」
目がマジだ。ここで負けるわけにはいかない!
「来んでええから!」
「来る!だってお兄ちゃん、生活力無さ過ぎるもん!」
「死にそうになったら帰るから、心配すんな!」
カッコよくキメたつもりだったが、妹が呆れた表情で溜め息を吐いた。
「ああ情けないわあ・・・!やっぱり私がおらんとあかんなあ」
「断固として否」
「悪い虫着いたら困るし・・・」
「なに言うてんの。俺もそろそろ彼女とか出来んとヤバイ年頃ちゃう?」
「絶対無理やし」
「ええ加減にしなさい!」
まあ、そんなこんなで過保護な妹を追い出す事に苦労しつつ
これからの一人暮らしに俺の夢は膨らむ一方なのでした!
作品名:アインシュタイン・ハイツ 304号室 作家名:甘党