たばこ訴訟
私がベンチに座ってタバコをふかしながら新聞を読んでいると、唐突に声がした。
ふと顔を上げると、OL風の女性が険しい顔をしてこちらを見ている。
突然のことにキョトンとしていると、噛み付くように続けた。
「あなたに言っているんですよ!」
私が訴えられていたのか。一体何の罪状なのだろうか。
「よくもまあこんなところでタバコなんて吸えますね!」
どうやら喫煙罪というものらしい。
しかし、ベンチの横には灰皿もあるし特に禁煙エリアというわけでもない。
もちろん子供が周りにいるわけでもないのだ。
いくら鈍感な私でもそれぐらいの分別はある。
「自分がタバコを吸うことで、他人がどんな気持ちになるか考えたことがあるんですか!」
ははぁ、これはつまり副流煙といいたいのだろう。
こうゆう手合いは相手をする方が面倒だ。
何も言わずに立ち去るに限る。
そう思い、灰皿にタバコを捨て、私はおもむろに立ち上がった。
「ま、待ちなさい!」
後ろから非難するように呼び止められるが、構わず歩き続ける。
全くタバコぐらいゆっくり吸いたいものだ。
特に私は一服する時間を大切にする方で、どんなことがあっても途中で吸うのをやめたりはしない。
だが、訴えられそうになるまで吸っているほど愛煙家ではなかった。
私の背後からはあの女性が大声でまだ叫んでいた。
「火事になっている人の家の前で、ベンチに座ってタバコを吸いつづけるなんてなんて非常識な人なの!」