TOKYO 2113
招致活動中は関心がなかった僕も、いざ決まってみれば俄然楽しみになってしまった。いや、僕だけじゃない。興味がないどころか、ついこの間まで反対していた人たちだって掌を返したようにお祭り騒ぎだ。僕は決まってから知ったのだけれど、東京でのオリンピック開催は2020年以来の三度目――つまり、ちょうど百年ぶりの一大イベントと相成るわけだ。そりゃあ、盛り上がらないワケがない。
今だって、僕のiPhone5の画面上に表示されているタイムラインには、オリンピック関連のツイートが溢れている。ネタとも本気とも取れないような、けれど確実に期待と興奮が入り混じった日本人のつぶやきが見て取れるようだった。僕も負けじと「あと七年は生きる理由が出来てしまった」なんてつぶやく。何と勝負をしているのか、自分でもわからない。
「だからって、気が早すぎるんじゃない? まだ七年も先の話なのに、開催を祝して百年前の東京をそっくりそのまま、町並みからデバイスまで丸ごと再現って」
瑣末なつぶやきを繰り返す僕の隣で、彼女は指先ではなく喉からつぶやきを発した。慣れない手つきで、ハーフの女性アナウンサーの映像が流れるiPadを触りながらも、彼女は続ける。
「そもそも、再現するんだったら前の東京オリンピックが開催された年にしなさいよ。何だって2013年なんて半端な年を――ああ」
彼女は口に出したおかげでようやく気づいたようだった。
「そう、前回の2020年東京オリンピックが決まったのも、今回と同じで開催から七年前の、要するに今年2113年からまるっと一世紀前の出来事だったらしいから、それを再現したんだってさ。気が早い、って意見には同意するけどね」
君が見ているその女性のスピーチが百年前の開催の決め手になったらしいよ、と付け加えて、僕は付け焼き刃の知識をひけらかす。今日初めてここを訪れた彼女と違って僕は昨日からこの世界に来ているので、百年前の出来事についてはちょっとばかり聞きかじっているし、デバイスの扱いにも慣れたものだ。
この東京再現イベントは九月の終わりまで一週間ちょっと続くので、僕はしばらく遊んでいこうと思っている。
彼女は2013年という数字の謎が解けたことに満足したのか、iPadを見つめたまま言葉にならない返事をしたままだったので、僕は続けた。
「ちなみに、2120年までの七年間、ずっと毎年百年前の東京を再現するらしいよ」
「えっ。あたし、毎年こんなところに誘われるの?」
それは少なくともこれから七年間は付き合っていてくれるってことでいいのかな、なんて小洒落た台詞を言おうか迷った末に、結局は無難な言葉を返して僕たちはアップルストアを離れ、次の目的地へと向かうことにした。
彼女の些か暴言に近い言葉を借りると、こんなところ――2113年の東京で再現された2013年の東京で、僕はこれから少し不思議な体験をすることになる。
作品名:TOKYO 2113 作家名:e_neue