あの世行きの切符
宛先は書いてない。住所も書いてない。しまいには儂の家の住所も書いてない。ただわかるのは儂充てに来たはがきだということ。どうやってここに送れたのかこのときは特別気にしなかった。というか考えても仕方ない。はがきには~あなたをお連れします~としか書いてなかった。何だこれ、と思いながら儂は女房が注いでくれたコーヒーを飲む。
「あら?あなた。何を見てブツブツ言ってるのかしら?」
儂の女房は儂がはがきを持ってるのをわからないらしい。儂はそれに目を丸くする。だが、儂はこのような思いは何度かある。儂は3回死んだ。だが、儂は生き返った。なぜか。それは知らない。きっと神様が助けてくれたのだろう。だが、死んで生き返って3回目の時、声が聞こえた。いつかお前自身で来い、と。それから儂は25年たった今。これが送られたんだろう。
そして今、儂は60歳の壁を越えようとしてる。
「なぁお前さん。儂と暮らして幸せだったか?」
儂は唐突に聞いてみた。儂の女房に。儂の女房は儂と同い年。てゆうか小学校から一緒だ。幼馴染を言うやつだ。儂は昔から儂のことを儂と呼ぶ。
それでだろうか、儂と女房が結婚したのは。付き合ったのは。仲良くなったのは。
「私はあなたに思ってくれるだけで幸せですよ。だけどイキナリどうしたの?」
「儂はもうすぐ死ぬかもな。年かな?」
女房は悲しそうな顔する、が顔のしわがしわしわになるくらいの笑顔を見せる。
「なんだ、お前悲しくないのか?」
「いえ。ただ最後に私の笑顔を覚えてから逝ってほしいと」
「そうか。優しいな。だからお前を好きになった。ゴホゴホ!」
今まで儂は風邪などひいてなかった。多分儂はこの切符を触ったら死ぬのかもしれない。だが、この世にもう未練はない。最後に儂は女房に言った。
「じゃあね。あの世で待ってる」
そう言って切符とそこから取る。