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海竜王の宮 深雪  虐殺12

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「当たり前だ。私の可愛い息子みたいなものだ。目に入れても痛くないと断言してやる。」
 いや、そんな断言いらん、と、杜紗がツッコミをひとつする。とりあえず、楽な格好に着替えてもらうために、それぞれの部屋に案内する。東王父と西王母のほうは、白那と是稀が案内する。
 着替えてくるから、ちょっと待っていなさい、と、客人が退出すると、やれやれと竜王たちは息を吐いた。とんでもなさすぎる光景なのだが、笑うに笑えないから苦行だ。
「深雪、桃を見せておくれ? 」
 季卿が、深雪の横に座り込んで、子猫を検分する。しゃあーと威嚇音を出している子猫は勇敢に、季卿の前で深雪を守っているらしい。
「桃、四兄に怒っちゃダメっっ。」
「みょおーーーんんんっっっ。」
「俺の家族なんだから、ダメッッ。」
 深雪が、それを叱ると、子猫も負けじと抗議の声をあげている。なんとも微笑ましい光景だ。
「あははは・・・本当にいい遊び相手になりそうだ。兄上、着替えていらっしゃい。私と季卿が相手をしておりますから。」
「そうだな。叔卿、おまえも着替えろ。」
 ここで、茶話会になるから、客人が戻るまでに、こちらも体裁を整えておかなければならない。とりあえず、伯卿と叔卿が着替えることにする。その間に、ここに席を用意させるのが、仲卿の役目だ。そして、人が多いと嫌がる深雪は、季卿が子猫ごと、寝所に運ぶ。
「おやつまで、こちらにいよう、深雪。」
「うん。四兄、ごめんね? 俺、迷惑かけた。」
 ぺこんと頭を下げている深雪に、季卿も微笑む。すっかり言動は子供に戻っているが、それでも普通の子供とは違う。ちゃんと自分がやらかしたこど騒ぎが起こったことも理解している。
「私は、別に迷惑はかけられていないな。そういえば、静晰姉上と暮らしていたのは、楽しかったかい? 」
「うん、蓮貴妃みたいで楽しかった。」
「は? 」
 背後が控えていた蓮貴妃は、小竜の言葉を訝しげに聞き返した。静晰と似ているなんて言われたことはない。あちら様は、女仙で目鼻立ちのはっきりとした美人だ。醜女と評価されている自分とでは、まったく違う。
「あのね、ものすごく難しい言葉、喋るんだけど・・・中で、すっごく優しいんだ。蓮貴妃は、もっと優しいけど、似てる。」
「え? 」
 今度は、季卿が疑問符を頭に浮かべて、つい声にしてしまった。優しい、という形容詞を蓮貴妃につけるのは、季卿には難しい選択だ。
「小竜、戯言はやめなさいっっ。静晰様にも失礼ですよ。」
「・・・でも、本当だもん。」
 今も、蓮貴妃は恥ずかしい、と、内心で照れているのだ。それに、深雪が無事に戻って子猫も手にしたから、それも喜んでいる。その気持ちが、深雪にも嬉しい。子猫を肩にしたまま、蓮貴妃に飛びついた。
「蓮貴妃、ただいま。」
「先日、聞きましたが? 」
 もちろん、蓮貴妃は、その深雪を抱き上げている。子猫も潰さないように配慮している。
「言いたくなった。・・・・また、勉強する? 」
「そうですね。遅れた分を取り戻さねばなりませんよ? 小竜。それに、子猫と遊ぶには体力も必要です。」
「うん。」
「それから、今は、季卿様のお相手をしなければなりません。私ではありません。」
「うん。」
「さあ、季卿様のお話をお聞きなさい。それから、大人しく待つこと。まもなく、皆様が戻られます。」
「うん。」
 とりあえず、床に下ろすと、蓮貴妃は後方に下がる。すると、深雪は季卿の許へ戻って来た。なんとなく、季卿も蓮貴妃が優しいというのは、わかってきた。なんだかんだと小言を俎上しているが、それはそれで愛しいからのことらしい。そうでなかったら、怪我してまで深雪を守りはしないだろうし、朱雀の力を消耗するとわかっていて、西海の宮に降りることもないのだ。
「ね? 四兄。」
「なるほどね、深雪。なんとなく、おまえの言うことは解った気がするよ。」
 たぶん、静晰も深雪を可愛がっていたのだろう。あの冷静な女仙でも、深雪には敵わないらしい。
「三姉も遊びに来るんだよ? 逢いたいって、俺がお願いした。」
「へぇーそれは凄いな。あの方は、西海の宮から出られたことはないのに。」
 嫁いでから、ほとんど、西海の宮から出て来たことはない。ここが、私の終の棲家でございますから、と、誘っても断るからだ。水晶宮にも公務がなければ現れないという仕事に忠実な方でも、深雪のおねだりには逆らえないらしい。ちょっと張り合いたくなって、季卿も深雪を抱き締めてみる。
「私も、おまえが可愛くて仕方がないよ? 深雪。いつか、北海の宮にも遊びに来てくれるかい? 」
「うん、遊びに行きたい。四兄も、お嫁さんいるの? 」
「まだ、正妃は決めてないんだ。だから、お嫁さんはいないな。でも、北海の宮からなら、氷の海が見られるよ? とても冷たいが綺麗なんだ。」
「凍ってたら泳げないんじゃないの? 」
「いや、完全には凍っていない。氷の塊が、たくさん浮いているんだが、海の底から眺めると、輝いて綺麗なんだ。」
 北海は、名前通り、北の端だ。氷山が浮かぶ海がある。海中から眺めると、独特の輝きがあって綺麗だ。是非、小竜にも拝ませてやりたい、と、思った。
「寒くないの? 」
「感じたことはないな。竜体だと鱗で体温は保持できるからね。人型だと、少し寒いかな。」
 それも体内の温度を上げれば、寒さは感じない。まあ、まだ小さい深雪では、それは無理だから、泳がせるなら竜体になるだろう。そんな話をしていたら、子猫が深雪の頬にかぶりついた。血が出るほどではないが、びっくりして深雪も飛び上がった。
「・・・待って。まだ。」
「みゅううう。」
「もうちょっと。」
「うにゅうゅゅゅゅ。」
「どうした? 」
「お腹空いたんだって。」
 深雪は子猫と超常力のほうで会話できているらしく、子猫の抗議に笑って、その頭を撫でている。俺から食べればいいじゃない? と、説明したら、さらに、がぶっとかじられている。守りの猫は、主からエネルギーを分け与えられて生きていくとは聞いている。だが、子猫はイヤならしい。
「え? 俺、食べるとこないの? ・・・・うーん、ごめん、桃。じゃあ、やっぱり待って。」
「みゅううう。」
「わかってる、俺も食べる。」
 食べるエルネギーが不足しているので、栄養を摂れ、と、注意しているらしい。この会話がおかしくて季卿が笑い転げていたら、華梨が戻って来た。桃のごはんを運んで来た。
「お待たせいたしました、背の君。」
「桃、ごはんきたよ? 」
 そう言う前に、子猫はエサに飛びついている。がつがつと食べているので、ほっとして深雪も華梨に抱きつく。うふふふ・・と、顔を見合わせて笑っているのが幸せそうだ。
「季卿兄上、着替えて来て下さい。」
「わかった。じゃあ、後でね? 深雪。」
 華梨が戻れば、季卿はお邪魔虫だ。早々に退散することにした。これで、ようやくいつも通りだ。水晶宮も安定する。