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天気雨

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 大学へ行くのに駅で電車を待っていると、急に雨が降り始めた。
 あたりは明るく、太陽の陽が燦々と輝いている。雲も見えない。
「狐が通るかな。」
「天気雨だな。」
 空を見上げ私が一人ごちるのと同時に、後ろから声をかけられた。驚いて振り向くと友人のSがいた。
「狐が通るってのはなんだい?」
 Sは興味深そうに聞いてくる。
 ちょうどそのとき電車がホームについたので、私とSはそれに乗り込み、流れ始める車窓を横にしながら話を続けた。
「いや、民話っていうか言い伝えっていうか、そう言う話があってさ。雲一つ無い晴れ渡った日に雨が降ると狐が嫁入りするって。というか、狐が降らせてるんだったかな。お前、黒澤明の『夢』って映画見たことない?」
「ないな。」
「それの中でも扱われてるんだぜ。面白いからおすすめ。」
「ほー。でも、なんで狐はそんな日に嫁入りするんだ?」
「俺も詳しくは知らないけど、その婚礼を見られたくないからってのは聞いたことあるな。」
「ふーん。なるほどねぇ……」
 Sは、面白いことを考えるな、と呟いて、そのまま黙ってしまった。
 私もそのまま、特に話しかけるでもなく窓の外を眺める。雨は、もうやんでいるようだった。

「さっきの話だけどさ。」
 大学近くの駅について一緒に降りると、Sがそう話し出した。
「うん?」
「天気雨って狐が化けるためなんじゃないかな。」
「ほう。またどうして?」
「天気雨降ったら、みんな空を見上げるじゃん。その隙にさ。」
 どうやらSは天気雨の理由を考えていたらしい。しかし、その理由はいかにも大仰すぎる気がした。
「そんなもん、人のいないところで化けりゃいい話だろ?」
 笑いながらつっこんでみる。しかし、Sは意に介さぬように続けた。
「いやいや、狐だって急に化けたくなるときもあるだろうさ。で、その近くに人がいたら、やっぱり見られちゃまずいだろ?」
「まぁそうだけど……じゃ、例えばそれはどんなときだよ。」
 大きな駅の出口にさしかかったところで、また雨が降ってきた。思わず見上げる。空は真っ青なままだ。
「例えば、急に電車に乗りたくなった、とかさ。」
 くぐもった笑い声にはっとなって見ても、Sの姿はどこにもなかった。

作品名:天気雨 作家名:紺野熊祐