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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 外伝3 前日譚:カズン

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 簡単な任務のはずだった。
 侍女を二人連れただけの皇子の暗殺。
 そんな簡単な任務のハズだった。・・・だというのに。

「アンタたち、さすがに弱すぎない?」
「これはもう・・・同情に値しますね。」
 同じ顔をした侍女達のうち、やや目つきのきつい方が地べたに這いつくばった我々を蔑むようにこちらを見下ろし、
もう一人のぼんやりした方は哀れみのこもった視線で見下ろす。
 自分たちは決して弱くはない。弱くは、ない。はずだ。と、カズンは考える。少なくとも一侍女風情に遅れを取るような訓練は受けてきてはいない。
 本当であれば、気づかれる間もなく、三人の息の根を止めるくらいワケが無いことなのだ。ただ、それはあくまで相手がただの侍女だった場合だということを今日つくづく思い知らされた。
 ひとつだけ言い訳をするとすれば、少なくとも自分たちは出会い頭振り向きざまに回し蹴りをしてくる侍女や、襲いかかってきた暴漢をそのまま投げ飛ばし、頭から地面に落とすような侍女に対しての訓練など受けてはいなかった。
 自分はまだいい、回し蹴りを食らっただけだ。しかし頭から落とされた相方は白目を剥いて気絶している。
「どう致しましょうか皇子。」
 目つきのきつい方が、我々のターゲットである皇子に向かって声をかける。
「手当をして、開放してあげようか。」
「な・・・少なくとも拘束して尋問するべきではないですか?最低限首謀者の名前くらいは吐かせるべきです。」
 バラ園の真ん中にある東屋の椅子に座って紅茶のカップを傾ける皇子に侍女が食って掛かるがもう一人の侍女にやんわりと諌められる。
「クロエ、皇子は手当をとおっしゃいましたよ。」
「・・・・・・。」
 クロエと呼ばれた侍女は顔を歪めてもう一人の侍女を睨みつけた。
「なんでアリスに命令されなきゃならないのよ。」
「私は別に命令なんてしていないわ。あなたのご主人様はなんて言っているかよく考えてみなさい。」
「く・・・。」
 クロエは悔しそうな表情を浮かべてアリスから視線を逸らした。


「意味がわからん。どういう事なんだ。」
「さあ・・・。何にしてもまだチャンスがあるということです。次はしくじらないようにしなくては。」
 侍女たちの手によって手厚く。(一部手痛く)手当をされ、何事もなかったかのように開放された二人は、二人の主がセーフハウスとして用意してくれていた仮住まいまで戻ってきた。
「まあ、おまえの言うとおりだな。もう一度チャンスがもらえたと思えば同じことだ。今度はあの二人に気をつけてやればいい。俺もお前もまだ奥の手は出していないんだからな。次は必ずアレクシスを殺す。」
「ええ、僕らの主の為に。」
「ほう。それで、お前たちの主とは誰だ?」
「何を言ってるんですかカズン。僕らの主といえば・・・。」
「ルーファス!!」
「へ?」
「アレクシスだ!」
 ルーファスと呼ばれた少年が振り返ると、そこには他でもないアレクシス皇子が立っていた。
 アレクシスの姿を見たルーファスは慌てて飛び退いて相方であるカズンの横に並んで構えを取る
「何でここが・・・尾行には気を付けていたのに。」
 青い顔をしながら尋ねるカズンに対してアレクシスは上を指さした。
「気球だよ。城で気球を飛ばして君たちがどこへいくのか監視させてもらった。本当は首謀者が分かればと思ったんだが、
どうやら首謀者はここには来ないようだな。」
 そう言って小屋の中を見回すとやれやれとアレクシスが嘆息し、カズンとルーファスに対して無防備に背中を向けた。
「では城に戻るとしようか。」
「待てよ。俺達がこのまま黙ってお前を帰らせると思ってるのか?」
「僕達はお前を殺す為にここにいるんだぞ。」
 カズンとルーファスはそれぞれナイフを抜いてジリジリとアレクシスの背中に向かって間合いを詰めていく。
「何でもいいが、見たところ満足に食事もとっていないのだろう。そんな事では私は倒せないぞ。」
 二人の殺気など意にも介せずアレクシスはすたすたと入り口まで進むとくるりと振り返って言った。
「一緒に来い。食事くらいは出そう。」
 そしてそのまま出ていってしまったアレクシスに手出しもできずにカズンとルーファスは顔を見合わせた。
「どうしましょうか。」
「どうするってそんなの・・・」
 行くわけがないと言おうとしたカズンの腹がいいタイミングで鳴った。



「図々しいわぁ・・・。」
 カズンたちの食事の給仕をしながらクロエがつぶやく。
「殺しに来た相手に食事を御馳走になるなんてアンタ達一体どういう神経をしているのかしら。」
 食事中ずっとこんな調子でブツブツよ言われているのだが、カズンもルーファスも一週間もまともな食事にありついていなかったためクロエの嫌味も耳に入らないといった様子で一心不乱に食べ続けていた。そんな二人の様子に、最後にはクロエも諦めて嫌味をいうのをやめた。
 一時間ほど食べ続けてカズン達が満腹になったところで、二人の所にアレクシスがアリスを伴ってやってきた。
「二人とも、腹は膨れたか?」
「はい。ごちそうさまでした。」
「何で敵に礼を言ってるんだよルーファス。」
「それとこれとは別じゃないか。食事をごちそうになったのは事実なわけだしカズンもお礼は言ったほうがいいって。」
「ルーファスの言うとおり、それとこれとは別だと考えてもらっていい。もちろん情報を貰えるなら大歓迎だが。」
「そんなこと言って、こいつは俺達を懐柔する気に決まってる。」
「アレクはそんなことを言う人じゃないわよ。」
 信用できないと言うカズンにクロエが不機嫌な感情を隠そうともせずに言った。
「大体ね、アレクが本気ならアンタ達なんて懐柔する必要なんかないんだから。」
「そうよね、自白させるのなんて簡単なわけだし。」
 ニコニコと笑いながらアリスもクロエに同意する。
「まさか、食事に自白剤を・・・!」
 アリスたちの話を聞いたカズンは口に指を突っ込んで食事をはきだそうとする。
「だから、そんなことないって。さっきの食事には薬物なんてはいってなかったし。」
 ルーファスがのんびりと言いながらお茶をすする。
「てか、お養母さんがわざわざ作った物吐き出したりしたら、アンタ殺されるわよ。」
 クロエにそう言われて、先ほど食事を持ってきてくれた中年の女性の姿を思い出したカズンは背中に寒い物が走るのを感じた。
一瞬目が合っただけだが、それでもわかるくらいの圧倒的な実力の差。
 双子と自分の差どころではない圧倒的な差。
 あの女性がこの城に居る限り、アレクシスの暗殺は不可能。
「・・・・・・。」
 その絶望的なまでの差を改めて認識したカズンは黙りこんで俯いた
「それで、とりあえず、二人の部屋なのだが・・・。」
「部屋ぁ?部屋ってなんだよ!」
「ん?この城に滞在する間の、二人の部屋だけど。」
「んなこた解ってる!どこまで馬鹿にしてんだって言っているんだ!」
「馬鹿になどしていない。どうせ僕の命を狙ってくるんだ、わざわざあの小屋に戻るのも面倒じゃないか。それにこれは施しではなく取引だ。」
「そんな取引に乗ると思ってるのか。俺達がそんな事で情報を・・・」