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海竜王の宮 深雪  虐殺7

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水晶宮には、青竜王の部隊に警護されて白竜王が戻っていた。衣服は、ボロボロだったが、大きな怪我もなく無事な姿だった。接見の間で、長と主人たちが並び、帰還の報告を受けた。
「・・・と、このような首尾で、恥ずかしながら捕獲され、隙を突いて逃げてまいりました次第にございます。申し訳ございません、長。捕らえられた宮城は破壊して参りましたが、供のものは私を庇い、悉く死にました。」
 白竜王は事前に打ち合わせた通りの報告をしているが、かなり苦しそうに言葉を吐き出している。ほぼ真実ではない。だが、公式の報告は、こうしなければならない。唇を噛み締めて苦しさを押さえている。
「シユウの王は? 」
「・・・・私の風の力で宮城自体を破壊いたしましたので、逃亡できていなければ死んだものと思われます。」
 間違いなく死んでいるだろう。誰も逃亡したものは目にしていない。だが、断定は避けた。万が一ということもある。
「長、シユウからの反撃も予想されます。まず、警備の強化を進言いたします。」
「そうだな、紅竜王。黒竜王、そちらの配下を準備させてくれぬか? 」
「承知いたしました、長。水晶宮の警備に就かせます。」
 他の竜王の宮は海の底だ。襲撃されるとなると、空に浮かぶ水晶宮や、地上の竜族の拠点ということになる。そこいらの警備を強化するために、各竜王の宮の部隊を展開させることになる。もちろん、これには白竜王の配下も参加することになる。白竜王もゆっくりとした休息の暇はない。公式の報告と今後の対策について指示が終わって、まず衣服を改めよ、と、長が白竜王を促して退出した。紅竜王と黒竜王は引き続き、警護の詳細について指示を出すために留まった。


 怪我の確認などされて衣服を改めて髪も直させると、水晶宮の公宮に白竜王は戻って来た。家族以外がいないことを確認して、叔卿は、そこで華梨に土下座した。
「・・・すまない、華梨。深雪に大怪我をさせた。」
 そして、深雪の功績を全部、叔卿のモノとして報告もした。本来なら、深雪が賞賛されるべきところを、完全に横取りし、さらに深雪に深い傷も負わせた。謝って済む問題ではない。
「無事で、ようこざいました、叔卿兄上。・・・・どうぞ、お顔を上げてください。これは、私が背の君に望んで、背の君が私の望みを叶えて下さったこと。叔卿兄上が謝られる類のものにはございません。」
「は? 」
「あなた様を助けたいと、私が願ったのです。ですから、背の君のお怪我は、私くしの責任にございます。・・・・事が落着きましたら、西海の宮で、背の君にお許しいただくのは、私くしでございますから。そちらは気になさいませんように。」
 別に、華梨は、そのことについては何も怒っていない。ただ、大怪我だったのだけが気懸かりなだけだ。そこに駆けつけることができないのが苦しいとは思うが、それも公けのことを為せば駆けつけることができるし、自分のために命懸けで救助してくれた背の君に愛しさが増すだけだ。
「わざと白竜の子供の死体を配置するとは・・・シユウにも知恵ものがいるらしいな。」
 長も、叔卿の失態について詰るつもりはない。誰だって、同族の子供の、それも同じ白竜の子供の死体となれば、動じないのは無理というものだ。ただでさえ、深雪を思い浮かべてしまう。たぶん、長自身も、その計略には引っ掛かっただろう。
「・・・・兄上たちが深雪を取り押さえるのに怪我したことがあったが、納得はした・・・・あれは無理だ。あんな力・・・いずれ深雪自身を儚くする。」
「だから、極力、使わせたくないのだ、叔卿。深雪の力は、諸刃の剣だ。おそらく、理性を失うほどに激怒させれば、華梨すら葬れるだろう。それほどの力だ。」
 思い出す光景は、到底、信じられないものだった。白銀の鱗が光り輝き、風を操っていた。それも敵味方関係なく、殺略の限りを尽くした。まさに、虐殺という行為だった。それを行なったのが、深雪というのが信じられない。心優しい小竜だ。理性を失っていたとしても、深雪の根底にあるものがあれなのだとしたら、今後、深雪の成長は、竜族の未来も左右するものになる。
「・・・・信じられない・・・・俺は信じられないものを見たぞ、華梨。あれが、深雪の本性なのだとしたら・・・あれは・・・」
「だがな、叔卿。その代わり、深雪も無事では済まない。・・・あれだけの力を搾り出せば、深雪は眠る。竜王と黄龍が防御すれば、倒せる相手だ。」
 白那は、それについては危惧していない。体力の問題があるからだ。それほど長時間、あの攻撃を繰り返せるだけの体力は、深雪にはない。今回だって、白那と叔卿で力を相殺させて防いだ。さらに他の竜王が協力すれば、どうにかなる程度のことだ。そこではない問題がある。
「深雪が、どの程度、今回のことを覚えているか。そこが問題だ。そう思わないか? 伯卿。」
「そうですね、父上。桜がいないことは、どうにもできない。事実を覚えているとしたら、深雪が精神的に衝撃を受けるでしょう。あの心優しき小竜が自身の行なった虐殺を受け入れられるのか、どうか・・・そこでしょうね。」
 普段は、戦うことを厭う穏やかな性格だ。本性が殺略を好むのだとしたら、事態を受け入れられるだろうが、とても伯卿には、そうは思えない。また、心を閉じてしまうかもしれないとは思う。
「父上、それは私くしが、必ず背の君のお心をお鎮めいたします。・・・あの方の本性が、どうあろうと、私くしの背の君に定めたのは私くしです。」
 理性を手放しただけではないだろう。深雪が殺略を好む性質を宿しているとは、華梨には、到底、考えられない。本当に、我を忘れただけだ、と、思う。桜を喪ったことが耐えられなくて、怒りを爆発させたに過ぎないはずだ。それなら、心を鎮めることはできる。もし、そうでないとしても、華梨は深雪を深く想っていることに変わりはない。どんなに悲しかったか、それを思うだけで、涙が零れるほどだ。
「たぶん背の君は悲しかっただけです。・・・・殺略を好むのではないと思います。」
「私も、そう思いますわ、あなた様。あの子に、そんな性質があるとは思えません。」
 これについては、是稀も同意する。ほとほとと泣いて縋りつく小竜が、そんな性格だとは、到底、考えられない。そうだとしても、それを理性で抑え込むことを教えれば済むことだ。まだ、これから、小竜の教育は続ける。まだ二百年近い時間があるのだ。
「まあ、そういうことだろうね、あなた様。私も、それはないと思うのだが・・・あったとしても矯正は可能だろう。」
「深雪が眠り病から覚めるには時間がかかります。目が覚めてからの深雪の様子を報せてくれるように、簾に文は届けておきます。」
 たぶん、かなり永い時間、目は覚めないはずだ。多少、体力はついていたが、それでも小竜だ。宮城のひとつを完全に破壊するほどの力を放出したのなら、回復には時間がかかる。
「とりあえずの対処としては、竜の領域の外れに、私と季卿の部隊を展開させます。それでよろしいですか? 長。」
「そうだな。おそらく、あちらも王が不在となれば、仕掛けてくることはないと思うが、念には念を入れておこう。仲卿、すまないが、天宮に参内して、事態の経緯を説明しておいてくれ。」