小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王の宮 深雪  虐殺6

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
シユウの領域から、海上に飛び、西海の宮近くまで、一対の朱雀は、小竜を抱えるように飛んだ。西海の宮への入り口で、蓮貴妃は、くるりと上空に向きを変えて飛び去る。片羽は、まだ血が流れているが、そんなものは無視だ。最速で飛ぶとなると、あの羽は、しばらくは使い物ならない。謡池で治療してもらえば、なんとかなる手筈だ。
 
 小竜を抱えた簾のほうは、そのままザブンと海中に身を投じた。西海の宮は深海にある。そこまで、一気に行かなければ、簾も息が出来ないから急ぐ。領域に入れば、そこには空気がある。そして、小竜の姿も人型に変化した。大きな竜体を保てるだけの体力が尽きたのだろう。簾も人型に変化して、自分の服で深雪を見えないように包んで、そこから宮に足を向ける。途中で、警護の兵士が近寄ってきた。髪は振り乱し、衣服も乱れた見た目には男だ。さすがに兵士たちも緊張した面持ちで取り囲む。
「私は、青竜王妃、簾だ。白竜王妃、静晰に取り次いでくれ。ちょいと野暮用だ。」
 もちろん、警護の兵士たちも、簾の言葉に叩頭し、すぐに宮へ伝令に走る。かなり草臥れた格好だが、それでも朱雀の公主としての力はあるから、誰も異論など唱えられない迫力はあるし、本来、朱雀が海底に赴くなど有り得ないから、それは真実だろうと判断された。

 しばらく、待っていると、宮から女官を連れた白竜王妃が現れた。
「まあ、戦でもなさったのですか? 簾様。」
「静晰、叔卿からの書だ。とりあえず、これを読んで、私を宮に入れてくれ。」
 懐から取り出した叔卿の書簡を手渡す。ざっと、それを読んで、静晰も顔色を変えた。それから、女官たちに、「私の私宮を整えてまいれ。すぐに向かう。」 と、命じて人払いもする。さらに、警護の兵士たちも元の位置に戻れ、と、命じた。周囲から人が消えると、簾の片腕にある包みに目をやる。
「この書簡は真ですか? 」
「真のことだ。おまえも、叔卿の行方不明は知っていただろ? ・・・まあ、その奪還に小竜も参加していたのだが、怪我を負った。治療のために、しばらく滞在させて欲しい。ただし、他言は無用。人手もいらない。」
「ですが、簾様。あなた様のお身体では、この宮は辛いのではありませんか? 」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだ。とりあえず、案内しろ。」
 まあ、ここで問答している場合でもない。静晰も、そう判断して自分の私宮に誘導した。片腕に抱かれているのが、夫の書簡通りなら、水晶宮の次期様だ。



 事態のあらましを説明して、簾は、寝台に小竜を下ろした。まだ、血は流れたままだから、それの止血から始める。
「では、医師を。」
「いや、それには及ばない。とりあえず、傷口を洗う強い酒と包帯、それから、滋養のある薬湯を頼んでくれ。」
「ですが、シユウの毒だとおっしゃいませんでしたか? 」
「それは、すぐに謡池の霊水が届く手筈だ。それまでは、血止めするぐらいしかやることはない。・・・ああ、静晰、おまえ、謡池からの品物を受け取って、ここに届けてくれるか? もしかすると、母上がいらっしゃるかもしれんので、こっそり、ここへ案内してくれ。」
「はあ? 」
「私の女房が、依頼の書簡を運んでいる。たぶん、あちらに、いらっしゃれば、すぐに現れる。先触れはあるはずだから頼んだぞ? 」
 母上、と、簾が呼ぶのは神仙界でも高位の女神だ。とても好奇心旺盛な方なので、騒ぎがあればやってくる。それも、後見している可愛い小竜のこととなれば、何が何でもやってくる。それを見越して、簾も書簡を認めた。簾は、その方が到着するまで、小竜の世話をするつもりだ。どう考えても、簾は長くは、ここに滞在できない。命に変えてギリギリまで付き合っても、小竜が完治できるまでは時間が足りない。その部分を頼むつもりだった。意識が戻れば、小竜は母や許婚を呼ぶ。もし不在なら、そのまま眠ってしまうだろう。それだけは避けたかったからのことだ。眠ってしまったら、体力を回復させられない。簾の母上なら、そこいらは、どうにかしてくれるはずだ。なんせ母性に溢れた方だから。
「眼球ごと、矢は引き抜いた。・・・・だから、毒自体は、それほど浸透していないはずだ。」
 咄嗟に、それを考えて矢は引き抜いた。それほど時間は経っていないはずだから、全身に毒が廻るほどのことはない。とりあえす、傷口を洗って止血するぐらいしか、今のところはやることはないのだ。
「わかりました。・・・では、命じられたものは調達してまいります。それから、あなた様の傷も。ついでに衣服は、どちらをご所望ですかしら? 」
「男物の包でいい。・・・・さすがだな? うちの女房とおまえだけだぞ? 」
「ほほほほ・・・・背中の動きが、ぎこちなくて判りました。骨折しておりますかしら? 」
「まあ、そんなところだな。」
 西王母の覚えの良かった女官だ。頭は切れる。簾の動きで、それも把握していたらしい。頼んだものの調達に、静晰は席を外す。それを見送って、簾は意識のない小竜の手を握る。左目は、再生できるはずだ。ただ、時間はかかるから、しばらくは不自由をかけるだろう。
「・・・すまない、深雪。」
 絶対に守ると約束したのに、小竜に大怪我を負わせた。白竜王の救出は見事だったが、そこから後は簾の責任だ。いつもなら、側に侍っている白虎の守猫の姿がない。たぶん、深雪を守って死んだだろう。それも、厄介なことだ。深雪が大切にしていた守猫が死んだとなると、深雪自身が相当に落ち込むだろうとも思う。
「おまえの力は、諸刃の剣だ。・・・・広を害したのは、あの力だったんだな。」
 ようやく、簾も合点がいった。竜に成り立ての深雪が、混乱して暴れたことがあった。それを取り押さえるために、青竜王と紅竜王が対処し、ふたりともが怪我を負い、深雪自身も半死の怪我をさせられたことがあったからだ。こんな小さな竜が暴れたぐらいで、と、簾は、その当時、広を詰ったが、この事実を突きつけられて納得した。確かに、意識を奪うには、かなりの傷を負わせる必要があっただろう。あの力をぶつけられたら、いかな竜王たちといえど、無事では済まない。簾では、逆に殺される可能性が高いほどの殺傷力だ。



 しばらくして、所望したものが届くと、簾と静晰の二人がかりで、傷を洗った。力の使いすぎで意識もないから、どれほどの痛みでも小竜は眠ったままだ。
「大丈夫なのですか? 」
「力の使いすぎで、眠り病を患っているんだ。力が戻るまでは、眠っている。」
 一応、小竜のことと、今まで起こった事態については説明した。冷静沈着が売りの静晰ですら、さすがに口をポカンと開けたほどのことだ。
「まさか、次期様に、こんな形でお会いすることになるとは思いませんでした。いずれ、こちらに遊びにこられるだろうとは思っておりましたけど。」
「うん、そのつもりもしていたんだけどな。おまえの亭主が油断してくれたので、こういうことになった。・・・・叔卿が迂闊だというよりは、シユウの策が上手だった。」